涙を流しながら訴える様子を見て、私は悲しくなってしまった。私はつくづく、自分をバカだと思った。でも、どうしても彼を手放したくない。

また一人の、何か月も誰も訪ねてこない、彼と会えない日常に戻りたくないという気持ちが強かった。彼を好ましいと思うよりも、今では情が移って彼はいつの間にか、息子以上の存在になっていた。

あとから考えれば、私の言動は逆効果だったのだ。

次の来訪から、彼の要求が変わった。私が頼む家の用事はやってくれるのだが、必ず帰り際に金を無心するようになった。

最初は、どうしても月の売り上げが足りないと言った。

「今月、あと二十万あれば、僕ノルマクリアなんですよ。あと二十万がどうしても、足りないんです。奥さん、なんでもしますから、お金貸してくれませんか?」

私は内心とても困ったことになったと思った。

その頃にはすっかり彼を信用していたので、家の中のほとんどのことを彼に頼んでいた。彼に留守番を頼んで、買い物や病院通いまでしていた。

本当に彼を信用し切っていた。いや違う、少なくとも私の感情は、異性に対する気持ちになっていたのだ。

別れは突然やってきた。

ある朝、警察官が二人、家に来て坂本曜が逮捕されたという。捜査に協力してほしいと言われた。

次回更新は4月28日(火)、14時の予定です。

 

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