「遅れてごめん、のどが渇いただろ? よかったら、これ飲んで」
差し出されたのは紙コップ、のどがカラカラだったので、思わず一気に飲み干してしまった。
まだ春先だったので、冷たくないのも気にならなかった。お腹が空いていたのに、彼とたわいもない話をするうちに、あたしの記憶はなくなった。
目が覚めたのは、古びた木造住宅の四畳半ほどの小部屋だった。
猛烈な頭の痛みと吐き気。やっと正気に戻って部屋を見回すと、あたしのほかに二人の若い女性がいた。二人とも後ろ手に縛られている。
あたしはまだ眠っていたから無事なのか。どちらにせよ騙されたのだ。ここはあたしが来たかった場所ではない。
徐々に鮮明になってくる頭で、やっと自分が捕まったのだと理解した。
築五十年近いと想像する、とてもボロい家、とにかくここから逃げ出さなくては。
尿意を催したので、トイレに行こうと思った。それに家の中が、どうなっているのかも、見たかった。音を立てないように、そうっと立ち上がる。
引き戸を開けたところで、男に見つかった。
色の黒い大柄な男、このとき初めて彼の全身を見た。
「なんだ、お目覚めかい?」
彼の目は笑っていなかった。
次回更新は4月22日(水)、14時の予定です。
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