食事を終えて病院に戻る車内で、妻の携帯電話がけたたましく鳴り響いた。慣れない道を運転しながら、妻の電話から漏れ聞こえる声に耳を澄ませた。
すると、高カルシウム血症、高ガンマグロブリン血症といった嫌な単語が入って来る。
この二つだけで、私はこれまでの見通しが甘過ぎた事を悟った。
私はこれまで、猫さんの病状を人間の医学に関して持っている多少の知識から類推していた。おそらく尿管結石と尿路感染症を併発して腎機能が低下しているのだろう。そこを治療すれば問題ない、もしかしたら手術が必要になるかもしれないが。そんな認識だった。
しかし、あの二つの単語が示唆するものは、そんなに甘いものじゃない。
治療法がありますように、そう祈りながら病院へと車を走らせた。
再び訪れた個室ブースで採血結果を見て、絶望が私に覆い被さった。
白血球数と血小板数が少なく、血球を作る骨髄機能が抑制されている可能性があるという。肝酵素系の数値は上昇し、カルシウム値は電話の通り高く、血清たんぱく質も高値でその中でもグロブリンが高かったのだ。
これは抗体を作るたんぱく質のはずだ。先生は丁寧に検査データを一つ一つ説明した上で、可能性のある疾患を三種類に分けて説明してくれた。
感染症、腫瘍、自己免疫疾患である。
そして、それぞれを念頭に置いた検査を行いましょうと言った。
その方針に異論はなかったが、私には分かっていた。この全てのデータの狂いを一元的に説明できるのは腫瘍、しかも悪性腫瘍しかない事を。昨年九月の健診の採血データとは何もかも違っていたのだ。
ここまで採血数値がおかしくなるという事は、猫さんの体内で怪物が暴れまわっているに違いないのだ。
先生は、感染症に対して、これまでとは系統の異なる抗生剤を処方し、同時に腫瘍の検索をする事を提言した。腫瘍の中で最も疑わしいのが「形質細胞腫」というもので、猫では肝臓か脾臓に高確率で出るので、その臓器を生検(臓器に針を刺して細胞を調べる事)すると言うのだ。
しかも今すぐに麻酔をかけて。出血が生じるので、血液の凝固能の確認が行われた。
結果は多少不安だが、できそうだとの事。