【前回の記事を読む】新卒1年目が飛び込み営業300件を越えて、ついに初契約——。その後、営業のコツを掴み、半年で支店長まで登り詰めた。その方法は

第二章 弱小の強心(きょうしん)

〈4〉

以前、県内で一番ピンチだったのは富士支店だったが、桐谷が着任してから奇跡的に業績が回復し、いまや一番危機的な支店はこの静岡支店だ。そこでまた、桐谷に白羽の矢が立ったのだ。

最終的に、人事は事業本部本部長の北井が決めている。あの男の考えは、想像に難くない。

(富士支店でちょっと結果を出したからって、どうせあいつ調子に乗ってんだろ。静岡支店にぶち込め。ダメだったら辞めんだろ)

北井がそう言っているように思えた。

桐谷は怒りが喉の奥に込み上げてきたが、それを必死で飲み込む。

(北井……あいつだけには絶対に負けたくない……)

胸中に再び炎が上がった。

〈5〉

2002年1月、桐谷は正式にナイスホープ静岡支店の支店長に就任した。

静岡支店の業務は、朝6時からスタートする。派遣スタッフの出勤コールを、毎朝6時から電話で確認するのだ。

桐谷の日課は、7時から派遣スタッフを派遣先までワゴン車で送り届けること。派遣先は、市内から離れた工場や倉庫が多いため、電車もバスもない。

毎朝、1時間かけて、桐谷が派遣先まで派遣スタッフを車で送り届ける。そこで顧客に挨拶して、派遣スタッフの仕事ぶりに問題ないかを確認する。

8時からは、また別の顧客に向かう。朝は、派遣先でトラブルが起こることも多い。時には桐谷が直接現場に入って、代役を務めることもある。

9時からは、新規営業が始まる。飛び込み、テレアポ、アポ取り、商談。

17時には、また派遣スタッフの送迎。支店に戻れば19時。これで業務は終わりではない。むしろここからが本番だ。

まだ明日の派遣先の人員がすべて埋まっていない。登録スタッフに片っ端から電話をかけ、予定が空いている人を探す。

桐谷は、よくアルバイトから、

「なんで派遣できる人数以上に、派遣の依頼を受けるんですか?」と聞かれた。もっともな質問だ。

普通の会社なら、自社のキャパを超える依頼を受けることはない。だが、ナイスホープは違う。依頼を断るなんて大罪だ。もし断れば、上からの怒号と詰問の嵐。立ち直れないほどの圧がかかる。

「依頼は、死んでも埋めろ」

それが、ナイスホープのスピリットだった。

また竜崎の言葉を思い出した。

「300人しか派遣できないと思うからできないんですよ。600人いける!と思えばいけますから。要は、マインドっす」

――その“マインド”が、いま桐谷に試されている。