(言ってほしい。どんなことでも。沈黙の方が辛い)
雅彦がゆっくりと部屋を横切り、よし子の隣に腰を下ろした。暗がりの中に、雅彦の横顔がある。
「……小野寺さんのこと、聞いてもいい?」
(ああ、やっぱり気にしていたんだ。ずっと聞けなかったんだね)
よし子は少し考えてから、正直に答えた。
「正志の友人として、尊敬していました。あとは――何も」
雅彦は黙って俯いた。
「本当に。告白されて驚きました。でも、私の心はあなたのところにしかありません」
雅彦は何も言わなかった。
(信じてもらえているのかな。それとも――)
「……あなたのことを、僕より長く想っていた人がいる」
小さな声だった。拗ねているような、照れているような。
「20年ですよ。僕があなたに出会うずっと前から、あの人はあなたを見ていた。……なんというか、出遅れた気分になるんだ」
「え?」
「つまり、その……」
雅彦が耳の先を赤くしながら視線を落とした。暗がりでも分かるほどだった。
「僕はあなたのことを、まだ1年しか知らない。あなたの人生の、ほんの少ししか一緒にいられていない。それが……悔しいんだ」
最後のほうは、ほとんど消え入りそうな声だった。
よし子はそこで初めて、雅彦が何を感じているのか理解した。嫉妬というよりも、もっと純粋な気持ち。もっと早くあなたに会いたかった――この人は、そう言いたかったのだ。
(この人、こんな顔もするんだ。なんだか可愛い。ずるいなあ、こんな顔されたら)
「雅彦さん」
よし子は暗がりの中で、雅彦の手を探して握った。
「1年と20年は、比べるものじゃないと思います。私が選んだのは、あなたです。今の私のそばにいてくれるあなたを選んだ。過去は変えられないけれど、これからを一緒に作れるのはあなただけです」
「……」