振り向くと、ナイスホープの社員が立っていた。
「あ、すみません、遅くなって……」
「これからご飯行くけど、君も来る?」
「え? ご飯ですか?」
思わず聞き返した。なんの脈絡もない誘いに、頭がついていかない。
戸惑っている桐谷を見て、社員は軽く頷いて促した。
「ああ、はい……行きます」
なぜか桐谷は、ナイスホープの社員3人とご飯を食べに行くことになった。
彼らは皆、グループディスカッションの際、後方で様子を見ていた人物だ。
〈2〉
桐谷は3人から名刺をもらった。
1人目は26歳の竜崎一誠(りゅうざきいっせい)。名刺には「西関東統括部長」と書いてある。2人目は28歳の夏目玲子(なつめれいこ)、「北関東統括部長」。そして3人目は35歳の奈良原勝(ならはらまさる)、「南関東統括部長」。全員が統括部長だ。
「26歳で統括部長なんですか!?」
桐谷はビックリして、思わず竜崎に言った。
「ま、この会社なら普通だけどね」
竜崎はニコっとして無邪気な表情で答えた。
桐谷と竜崎はわずか5歳しか違わない。しかし、その雰囲気はまるで別次元だ。修羅場を潜り抜けてきた者の風格、腹の底から湧き上がる覇気――。
ひと言で言えば、桐谷とは「凄み」が違うのだ。聞けば、竜崎は昔、相当ワルだったらしい。
3人の統括部長は、スパゲッティを食べながら、この会社のことを色々と教えてくれた。
ナイスホープという会社は、人材派遣を行う会社であること。人材派遣という業界は、いまはまだニッチだが、今年2000年以降は、凄まじい勢いで成長する新興市場であること。
それを見越して、いまナイスホープではシステム開発と広告に莫大な投資をして、一気呵成に全国展開していること。
そして、この会社の原動力は――「実力主義」であること。
強い者が上に行く。その「強さ」の指標は、売上。売上を上げた者が、地位と名誉と報酬を手にする。
勝てば官軍、負ければ賊軍――年齢も学歴も経験も一切関係ない。至極(しごく)シンプルな世界だ。
桐谷は初めて聞く話に、好奇心と恐怖心が行ったり来たりして、スパゲッティが喉を通らなかった。
次回更新は3月27日(金)、8時の予定です。
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