【前回記事を読む】「お願い…5分だけ」中から女性の声も聞こえた。その声は次第に熱を帯びていき…夫は女性と2人きりで一体なにを?

雨の中の真実

どれくらいそうしていただろう。

雨音に混じって、足音が聞こえた。ぬかるみを踏む重い足音。東屋の入り口に、ずぶ濡れの雅彦が立っていた。髪が額に張りつき、シャツが体に貼りついている。息が荒い。走ってきたのだ。

「よし子さん——」

「来ないで」

「来ないでと言われても来ます。あなたがこんな所にいるのに、部屋で待ってなんかいられない」

(来てくれた。雨の中を走って来てくれた。こんなに濡れて)

雅彦が東屋に入ってきた。よし子の隣に座り、上着を脱いで、よし子の肩にかけた。

「風邪をひく。戻ろう」

「その前に、話してください。あの人と何があったんですか」

雅彦は深く息を吐いた。

「沙織さんが持ちかけてきたのは、旅館への出資の話だ」

「出資?」

「藤乃屋は経営が苦しい。客足も減り、修繕費も嵩んでいる。沙織さんはそれを知って出資を申し出てきた」

よし子は顔を上げた。雅彦は前を向いたまま話し続けた。

「最初は純粋な支援だと思った。でも話を進めるうちに、経営権の一部を譲れと条件が出てきた」

「経営権……」

「旅館の実質的な買収だ。リゾートホテルに改装する計画を持っていた」

よし子は言葉を失った。

(そういうことだったの。私が思っていたこととは、全然違う話だった)