【前回記事を読む】48歳の再婚だけど、式では白い着物を着た。この年齢で?と私は遠慮したのに、いつもは怖いお局の先輩が「馬鹿言わないで。」と…
新婚の朝
目が覚めると、隣に雅彦がいた。
式の翌朝だった。よし子は布団の中で、ゆっくりと息を吸い込んだ。山の空気。雅彦の体温。2人の寝室になったこの部屋の、まだ見慣れない景色。
(夢じゃない。本当に、一緒に朝を迎えている)
雅彦はまだ眠っている。横顔を見ると、皺の刻まれた頬が柔らかく緩んでいる。眠っている時の顔は、起きている時より少しだけ年老いて見えた。でもそれが、よし子には愛しかった。
(この人の眠っている顔を、毎朝見られるんだ)
そっと布団を出て、台所に向かった。
朝ご飯を作ろうとして、気がついた。卵が2個しかない。雅彦は卵料理が好きだと言っていた。昨日の食事の後に「目玉焼きはどっちに崩す派ですか」という話になって、雅彦は「両面焼き」と言っていた。
(両面焼きか。私は半熟派なんだけど)
フライパンを温めながら、よし子はコーヒーもセットした。雅彦用に砂糖を1杯、自分用に2杯。
「……何をしているんですか」
振り返ると、雅彦がパジャマのまま台所に立っていた。寝癖のついた髪に、半分眠った目。こんな姿を見るのは初めてだった。
(すごく、人間くさい顔をしている。なんか安心する)
「朝ご飯を作ろうと思って。卵があったので」
「僕も起きますよ。手伝います」
「寝ていていいですよ、今日くらい」
「新婚の朝に、妻1人を台所に立たせるわけにはいかない」
(新婚。この人が「新婚」って言った)
よし子は思わず笑った。「新婚て、お互い50近くなのに」と言いかけて、やめた。そういうことじゃない気がしたから。
雅彦が隣に並んで、パンを切り始めた。2人で並ぶと台所が少し狭く感じる。でもそれが、不思議と居心地よかった。