葉みくじ

「こんなところに神社なんてあったんだ」

会社の裏手に小さな神社があるなんて、勤めて十年も経つオレは鳥居に気づいて驚いた。鳥居の上の扁額には「富津倉神社」とあった。

「ねえ、ちょっと寄ってかない?」

オレは出張帰りに会社の一つ隣りの駅で降り、そこで待ち合わせしていた同僚の由利子にここまで引っ張られて来た。

会社が近くで誰が見ているか分からないから、実のところオレは気が進まなかった。参道は間口こそ狭かったが長さは想像以上にあって、奥には何本もの高木に囲まれた広い空間が開けていた。

オレは周りの景色も目に入らぬまま、いつの間にか由利子と本殿の前に来ていた。

「小銭ある? 私キャッシュは持ち歩かないから……」

「ああ、二人分あるよ」

オレは軽くうなずいて、ポケットから革製の小銭入れを取り出した。そしてこれくらいが妥当かなと思われるコインを二人分、賽銭箱にコン、カラっと入れた。

由利子を真似て柏手を打って頭を下げた。目を上げると本殿の奥の大きな鏡の前で、神主が何人かの祈祷を執り行っていた。それにしてもあの大きな丸い鏡は何を表しているのだろうと思った。

本殿の周りに季節外れの蝶が不思議に舞っていた。

境内には花も咲いてないのに妙だと思った。よく見ると一匹や二匹ではない。きれいな模様の羽根を持っているのでアゲハの一種かもしれないと思った。

「ねえ、おみくじ、引いていかない?」と由利子が言った。

「オレは遠慮しとくよ」

「なんでえ? せっかくお参りしたんだから一緒に引きましょうよ。ここのは『葉みくじ』っていって特別なのよ」

「『葉みくじ』なんて聞いたことない」

「葉っぱに託宣が書いてあるから『葉みくじ』なんじゃない」