男が着替えをして浴室から出てきた。ひと風呂浴びたような、さっぱりした様子だった。救急箱を取りに行った時、シャワーの音がしていたから、時をかせぎ心をととのえたのかも知れない。
背が高くて浅黒い肌の、堂々とした二枚目だった。桐野耀子のはす向かいの椅子に座ると、ぐたりと沈んでいる彼女に目を据え、この女、どうしてやろうかというように、溜息ともつかぬ長い息を吐いた。
「コーヒーでもお入れしますわ」
薔子は耀子のそばから立ち上がった。
「かまわないで下さい」
男は言ったが、薔子はいわくありげな彼らのそばには居にくくて、リビングを出た。
パーコレーターをセットし、浴室に行った。男の服はともかく、耀子の服を乾かさなくては出られないだろう。自分の服を貸す手もあるが、なるべくならそれは避けたかった。
脱衣所に散乱しているのは女物だけで、男の物はきれいになかった。湯気の残る浴室もきちんと片付いていて、タオルも畳んである。女といざこざを起こすほかは案外良識人らしいと、薔子は男を考えた。
他人の家に飛び込んできて、風呂場を使うのに、「ありがとう」とは、高飛車だし、図々しいと言えば図々しいが、悪い育ちではなさそうだ。いざこざ、というのは、薔子の当て推量だが。
レースのついた透けるような下着類と、高級ブランドのマークの入った薄手のツーピースをざっと濯ぎ、折り畳んで脱水機にかけた。高価な布地を考えて乾燥機は低温にセットした。ストッキングは破れていた。
下着をまとめている時、耀子にパンティーを出してやるのを忘れたことに気づいたが、男の前で今さらどうぞとも言えなかった。桐野耀子に新しいパンティーを進呈する義理もないわ、と思った。