母の旅立ち

南軽井沢の建築計画はとん挫してしまったが、なんと私はその後、中軽井沢のゴルフ場の近くに一日単位の貸別荘が可能な土地を探し出して、建築に着手していた。

建築している間は、頻繁に軽井沢を訪れて、進行をチェックしていた。その間、母を軽井沢の老人介護施設に預けていた。

軽井沢の家が完成したら、施設から母を呼んで週末を一緒に過ごそうと楽しみにしていたのだった。

完成間近になった夏の日、前日まで元気だった母の体調が急に悪くなり救急車で運ばれたと、施設から連絡が入った。大急ぎで妹と新幹線で軽井沢の隣、佐久平へ向かった。

駆け付けた私たち姉妹を見届けた直後、母の容態は急変した。

蘇生措置の間、廊下で待つように言われた私たちだったが、数分後、母の臨終が告げられた。

あまりにもあっけなく母は逝ってしまった。

人に迷惑をかけたくない!というのが母の信条だったから、寝たきりになんかなりたくなかったのかもしれない。

あまりにも急な母の旅立ちに、私は呆然としていた。

死因は「敗血症」。

持病薬の副作用で腫れた脚から黴菌(ばいきん)が入って全身に回ったのではないか、ということだった。

亡くなった直後の母の亡骸を見て、母の魂はもうそこにはないと感じた。母の手や身体はまだぬくもりがあったけれど、既にそれは「抜け殻」で、まるで蝋人形のように感じた。

私はなぜか宙を見て語りかけていた。

「お母さん」

「今、どんな感じ?」

私には霊感はないが、なんとなく病室の天井近くから母は自分の亡骸を見ているように感じられた。

ああ、魂が抜けるって、こういうことなのだ。

この瞬間に、亡くなった後、魂は肉体を離れていくことを悟った。母は最期にそのことを教えてくれたのかもしれない。

母は旅立ってしまったが、呼べばいつでも来てくれるような気がした。

次回更新は3月23日(月)、19時の予定です。

 

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