【前回の記事を読む】『増殖』のジャケットには3人の人形が何十体も並び、文字通り増殖している。このタイトルとジャケ写が意味する事は……

DiscI YMOバイオグラフィー

Track1. 突如出現した電子音の魔法

ブレイクしたYMO

それが如実に現れたのが、『増殖』発売前の4月に武道館で行われた小学館主催『写楽祭』での出来事だ。

イベントの客はすべてハガキによる抽選無料招待。総合演出は桑原茂一、司会は咲坂守(小林克也)、畠山桃内(伊武雅刀)、という完全にスネークマンショーの世界観でのイベントとなった。

スネークマンショーは『増殖』で広く認知されることになるが、『増殖』発売前のこの時点では1万人の観客のうち一握りしかスネークマンショーを知らなかったであろう。

観客のほとんどがYMOの演奏を観に来ていた。

ところがYMOは坂本が女装して、キングストン・トリオの衣装でステージに上がり、反戦フォークを3曲歌った。

小林克也が「これでYMOは終わりです」とジョークを言った途端、会場が大騒ぎになった。ジョークは通じずブーイングの嵐である。

そこで坂本は「うるせえぞ馬鹿野郎!」と客に向かって怒鳴ったのである。

火に油を注いだ形で会場は怒号が飛び交い、高橋が「黙って聴いてなさい。ちゃんとやるんだから」となだめて、ようやく落ち着き、その後YMOは『ライディーン』など数曲のメジャーな曲を演奏し、ファンはやっと納得した。

演出のシャレが、ファンには通じなかったのである。もっとも、ファンの中で「YMOはふざけるのが好き」という認識がなかったので、真に受けても仕方ないところではある。

ただ、YMOにとってみれば、ファンとの認識の乖離は衝撃だったはずである。

大量生産でマスになったが、大衆が集合体となれば力を持つ。つまり巨大資本の圧力ではなく、巨大ファンの圧力が、YMOの自由な表現を束縛するものとなったのである。

YMOはどうすればいいのか。サブ/メインの二項対立がYMOの内部で起こっていたと言える。