「はい、当マンションのコンシェルジュ高城と申します。何なりとお申し付けください」
このマンションも高城さんも思い出せない。
貢さんはこんなすごいマンションに住んでいて、どうやって私達は知り合ったんだろう。
マンションの部屋に入ると「この部屋を使っていたから」と案内された。
その部屋には赤ちゃんの物が買い揃えてあった。ベッドも置いてあり、夫婦なのに別々に休んでいたんだと、不思議だった。
「あのう、私達は別々の部屋で休んでいたのですか」
「あ、沙優がお腹大きくなってから、別々の方がいいだろうって思ってそうしていたんだ」
「そうですか」
「疲れただろう、横になっていた方がいいんじゃないか」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて、少し横にならせて頂きます」
私は案内された部屋で少し休むことにした。
あんなに優しくて、気遣いしてくれて、貢さんのことどうして覚えていないの、何か思い出したくないことがあったのだろうか。私は横になって、眠ってしまった。
眠りの中で、私の呼びかけに背を向けている男性が振り向きもせず、マンションのドアを出て行った様子が映し出された。
「待って!」
自分の叫んだ声にびっくりして目を覚ました。貢さんが「どうした」と部屋に入ってきた。
「大丈夫か」
貢さんは小刻みに肩を震わせていた私を抱きしめた。でもすぐに私から離れて「ごめん」と戸惑いを現していた。
「すみません、夢に驚いてしまって」
「夢?」
「はい、私が待ってって声をかけたのに、振り向きもせず、私の前から姿を消したんです。あれは誰だったのか、思い出せなくて……」