【前回の記事を読む】常に酔っている妻…家族旅行中は水筒にワインを入れ持ち歩いていた。娘の進学費も酒代につぎ込んでいた事が発覚し…
人生を失い、それでも女は這い上がれるか
治美
このころはお酒を飲むと気持ち悪くなり、吐くこともあった。具合が悪いから布団に入り、いつのまにか寝込む。目が覚めると酔いが少し覚めていて、また飲む。
で、気分が悪くなる……の繰り返し。自身の思いも「誰か助けて」というところまで来ていたのだ。そして、来院。即、入院が決まった。
愛美を治美の実家に預けることも考えたが、本人が友達と離れるのを嫌がった。通学も不便だ。
「それにね、あの子、四年生にしてはすごくしっかりしてて、夕飯は自分で作るし、ひとりでパパの帰りを待っていられるのよ。夫もできるだけ早く帰るようにしたし。でさ、夫婦で話したの。愛美がこんなにしっかりしているのは私のせいだよねって。
母親がいつも飲んだくれてるから、なんでも自分のことは自分でするしかなかった。そう思うと切ないよ。退院したら、思いっきり甘えさせてあげよう、お料理もたくさん作ってあげよう、それがせめてもの罪ほろぼしだってね。ホント、娘の気持ちを考えると謝っても謝っても足りない気がする」
そう話しながら、治美の目に涙があふれた。恵子にしても、二人の息子へは同じ思いである。治美の涙は恵子の涙でもあった。
治美は、革細工でたぐいまれな才能を発揮した。元々、裁縫が得意で、パートを始めるまで愛美の服はほとんど手作りしていたという。
恵子も革細工には興味津々で、片面を八枚はぎ、バックスキンと表面が交互の千鳥格子のようにしてみたりして、周囲を感嘆させた。
革細工の時間だけでは足りないから、熱心な者は部屋に持ち込んで、夕飯後、おしゃべりをしながら手を動かす。薬を持ってきたり検温に来た看護師さんが製作途中の革細工を見て、「すごい! 手が込んでるの作ってるわね~」と驚く。それがまた嬉しい。
治美は恵子の比ではなかった。細長い棒状の色づけした革をたくさん作り、それをメッシュ状に編み込んでいくのである。これは面と面をつなぐために縫い合わせる作業がとても難しい。
さすがに治美だけでは手に負えず、先生がつきっきりでサポートした。すばらしい出来栄えだった。デパートのバッグ売り場に並んでいてもおかしくない。色づけも丁寧でむらがないから、完成度が高い。治美は気をよくして、入院期間中に三つの革バッグをこしらえた。
一つは愛美にプレゼントして、とても喜ばれたそうだ。この自信が、退院後の彼女の断酒を支える大きな力になった。
治美と恵子は数日しか入院日が違わないので、退院もほぼ同時だった。退院後は、週二、三度電話で話をした。