治美は四郎と話し合い、パートの復帰は急がず断酒に自信がついてからにすること、以前から興味があり革細工で自信がついた指先の器用さを活かしてパッチワーク教室に通うことにしたそうだ。

教室は週一回だが、課題が出るので、家でその作業をすることになる。夕飯は、新聞の料理欄を切り抜いたりして丹精込めて作っているという。

「専業主婦って、実は料理は手抜きの人も多いのよ。朝と夜作って、ダンナや子どものお弁当も作ったりするから、そうそう手をかけてはいられないでしょ?

けっこう冷凍食品や、野菜切って一緒に炒めれば出来上がりみたいな補助製品を使ってる。私もそうだった。だいたい四郎は家で夕飯食べなかったしね。だけど、いまは、愛美のために心を込めて美味しいものを作りたいと心底思えるし、四郎も社食で食べるのを止めて、夜八時くらいには帰ってきて家で食べるようになったの。

だから、作りがいあるよ。やっぱり料理は食べてくれる人がいないとやる気にならないよね?」

治美の声は弾んでいる。パッチワークも楽しいようで、まだ初歩的なものしか作れないが、いつかソファカバーやラグにも挑戦したいという。

恵子など、あの小さな四角を縫って、それをカーペットほどの大きさまで縫い足していくなど、想像を絶する作業に思えたし、それに打ち込む感情もまったく理解できなかった。「買った方が早いじゃん」、そう思ってしまう。

「違うんだな」と治美はいう。

「少しずつ自分の作品ができていく充実感、恵子さんにはわかんないだろうなぁ。なんていうかさあ、作品って自分の分身なんだよね。そのとき、そのときの感情や体調が出るの。だから焦ってるといいものはできない。

平穏な気持ちでゆったり向き合わないといい作品にならないのよ。やっぱり、最初のころの作品を見ると、仕上げることばかり考えてて過程を楽しんでないから、作業が粗いよね。それがだんだんと一針一針を大切にすることができるようになって、作品も丁寧になる。自分の心の鏡みたいだよ。お金では買えない何かがある気がするなぁ」

なるほど、そんなものか。恵子は感心する。治美が打ち込めるものができて恵子も嬉しい。

次回更新は3月24日(火)、21時の予定です。

 

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