翔太は車のトランクを開け、私物のリュックを取り出そうとした。その時、脇に厚手の風呂敷に包まれた物体があるのに気が付いた。

「お客様の忘れ物?」

翔太は不安になった。さっき営業所を退所する時に、お客様の落とし物の連絡はなかった。

翔太の勤務しているタクシー会社はお客様の忘れ物があった場合は、即座に連絡網が回り、各営業所に問い合わせが入る仕組みになっている。

「何か大切な物のはずだ」

厚手の生地の包みを翔太は眺めた。その紫紺の風呂敷包みを両手で抱え、後部座席に置いた。

室内灯を照らし風呂敷の上から叩いてみるとコンコンと木箱のような音がした。風呂敷の結び目を開放し、丁寧に折られている布を左右に開くと木箱が現れた。

一升瓶が二本ほど入りそうなサイズ。どっしりとした質感で、表面にはそれぞれに赤、青、黄などの原色が絡み合った模様が見える。全面に竜の彫り物が見えた。

黒みがかった赤色の竜と、濃い青色の竜。

翔太は木箱に彫られた竜に見つめられている感覚になり、背筋がこわばった。

ガッキー君とグッキー君は後ずさりした。翔太はそっと蓋を開けた。

「空っぽだよ!」

車内の照度は十分ではなかったが空かどうかくらいは分かる。上から見ると確かに何も入っていない。翔太は少しがっかりしたような口調で横にいる二匹のペットに向かって再度ささやいた。

「何だよ──空じゃん」

箱の中にそっと右手を差し入れた。箱の側面にはザラザラとした感触がある。何かの彫り物らしいがよく分からない。

八十センチほどの深さの底に達したはずの右手には何の感触もなく、翔太の右手は下方にどこまでも進んだ。

右肩が箱の縁に触れるまで進むと心臓がドキッとした。右手の先端は明らかに木箱を通り抜け、後部座席のシートを突き抜けているはずなのだが、手には何の感触もない。

翔太は一気に腕を戻した。ドンと大きな音がした。

「イタッ」

焦って引き抜いたために手が車内の天井に打ち付けられて、ジンジンとした痛みが残った。

「これは底なしの木箱!」

気味が悪くなった翔太は、ガタンと後部座席のドアを勢い良く閉じた。はあはあと息が荒い。

「大丈夫かい?」

青ざめた顔の翔太に向かいガッキー君はささやいた。翔太はゴクリとして言った。

「こんな気味の悪い物が、なぜトランクの中にあったのだろう。きっと今日のタクシー利用者さんの誰かが忘れていった物だ。営業所の落とし物係に問い合わせてみよう」