「そんなアホな」川田は紅潮しはじめた。「戯れ言はいい加減にしてください。俺たち中学生はここ数週間、あんたたち大学生を頼りにしてきた。あんたたちに従っていれば、いつか家に帰れると思って、だからこそなんでもかんでも言うことを聞いてきた。それなのに、ここにきてわけの分からない、SFみたいなことを言って。どういうつもりなんです？」
「うるさいッ！」砂川は声を荒げた。「俺たちだって分からないことはあるさ。今の説明は、見つけた事実をみんなで共有しただけだ。俺だって感じてるさ。何もかも、不可解で、理不尽で、ばかげている。信じられなくて当然だ。でも、これが現実なんだ。納得するしかないだろ！」
砂川はひと息にまくしたてると、自分を落ち着かせるように大きく息をついた。彼が見せた怒りは、メンバーを不安にした。日頃寡黙で落ち着いている砂川、知性も教養もあるはずのその彼が、大声を飛ばすとは――。
場は水を打ったように静まり返った。
カマドで爆（は）ぜる火の音。
女子のすすり泣き。
林が立ち上がって言った。
「砂川君、ありがとう。川田君も落ち着いて。――というわけで、状況は相変わらずよく分からないんだけど、これからまだまだサバイバル生活が続くのは、確かだ。昔、十五少年漂流記って本を読んだことがあるんだけど、それと似たような感じなのかな。あ、読んだことのある人、いる？」
林は手を上げて一同を見渡した。メンバーからは一人も手が挙がらなかった。少しでも空気を和らげようと本の話を振ったつもりが虚しく空振った。それどころか、女子のすすり泣く声はボリュームを増し、人数も増えていった。
「あのう」
隅の方に座っていた中学生女子が、声を上擦らせて言った。
「十五ナントカのことは分からないんですけど、私たち、元の世界に帰れるんでしょうか」
林は言葉に詰まった。
すると、隣にいた早坂が立ち上がった。
彼は中腰になり、涙を浮かべる女子に語りかけるようにしつつ、全員に聞こえる声量で言った。
「泣きたい気持ちは分かる。けど、希望を捨てることは無い。我々がなぜ縄文時代にタイムスリップしたのか、そもそもタイムスリップとはどういうものなのか、見当もつかない。ただ、今言えるのは、こうして我々が現代から過去にジャンプしたということは、その逆が起こる可能性を決して否定できないってことだ。一度起こったことは二度起こりうる。だから、きっと帰れる。いや、帰るんだ。帰る努力をしよう」
早坂の目は静かに輝いていた。女子中学生はコクッとうなずいた。
