Chapter3 定住への道
「いい加減にしてください」川田は声を荒げた。
「土偶が見つかったから縄文時代なんて、あんまり安直じゃありませんか? それが本物かどうかもわからないですよ」
川田に呼応して野次が飛ぶ。
「そうだそうだ」
「ちゃんと大学通ってんのか?」
砂川は落ち着き払い、
「むろん、これだけで決めたんじゃない。理由はまだある。こないだ男子の探検隊が南へ向かった時、深い谷に阻まれて引き返してきたんだが、その時、谷で比較的新しい崖崩れの跡を見つけた。気を利かした盛江君が、観光案内所の備品のデジカメで――こいつはソーラーパネルで充電可能な優れものだ――断層を撮影した。観光案内所には浅間山や本白根山の噴火によって生じた地層の資料がたくさんある。資料を見れば、どの地層がどの時代か一発で分かる。
俺は早坂、沼田と一緒に、資料と盛江君の写真を見比べた。愕然としたよ。写真には、ある水準から上方に向けて存在すべき地層が無かった。写っている一番新しい地層は、資料の示すところの約四千五百年前の層だった。
その情報だけでも、おおよそ今いる時代の見当はついた。だが、いかんせん俺たちは所詮大学生で、地質学や考古学の専門家ではない。厳密な決定を下すことはできないよ。そんな中、今日このハート形土偶が発見されたことは、仮説をさらに後押しした。もう確信してもいいだろう。俺たちは縄文時代にいる。以上」
砂川はしゃべり終え、腰を下ろそうとした。
「待って!」川田は声を張り上げて阻止した。「今が縄文時代かもしれないってことは分かりましたよ。でも、問題は解決していない。どうして俺たちは縄文時代にいるんです? どうしてこうなったんです?」
「それは分からないよ」砂川はあっさりと答えた。
「おかしいことはまだある。縄文時代にいるってんなら、どうして観光案内所の建物は残っているんです? イミテーションの竪穴式住居も、ソーラーパネルの充電装置も。なんで残ってるんです?」
「それも分からない。たぶんこの辺一帯がゴッソリ時間移動したんだろう」