―次に動いたのは、タケだ―

タケは気配を消し教壇に近づく。教壇の上のファイルに挟んであった先生用の世界史便覧を奪取し、懐にしまって自分の席にダッシュで戻る。その一連の彼の動きに一切の無駄はなく、全て計算しつくされた超合理的な動き。僕は美しささえ感じた。

書き損じた文字を黒板消しで修正した先生と委員長が振り返った瞬間、タケがピンと挙手。それに気づいた先生が言う。

「おう、タケ。珍しく、積極的やんけ。その調子や」

「いや、ちょっと。ええ案浮かんだんですよ、先生」と、顔はニコニコ、首はクネクネして坊主頭を揺らすタケが言う。

「タケ、言うてみぃ?」「はい。クラッツィーとかどうですか?」先生が不可思議な顔をした。

「はっ? クラッツィー? なんや、クラッツィーて?」「先生、発音ちゃいます。語尾をあげる感じで、クラッツィーです」「クラッツィー? 何やそれ? 先生、全然知らんわ」「マジですか? お菓子ですよ! 中世ヨーロッパで流行したお菓子です。クラッツィーを再現して、現代で販売するっていうのはどうでしょ?」「先生、ほんまわからんわ」「マジっすか? 世界史の便覧にも載ってますやん! ナポレオン・ボナパルトが愛した洋菓子って」「ほんまかぁ? 委員長は知ってるか?」「いえ、私も知りません」と美樹も首を傾げる。

委員長も知らなかった事実を追い風に受けて「タケ、ほんまなんか? お前、嘘ついてるんちゃうんかぁ?」と先生が猜疑の眼を向けて発した言葉に、クラスメイト全員が笑った。

「いや、これマジなんです! クラッツィー!」とタケが叫び、「めっちゃ悔しい! めっちゃ潔白、証明したい! 文化祭でクラッツィーやったら絶対盛り上がりますから! 先生、今すぐ、便覧で調べてくださいよ!」「おん。ほな、ちょっと調べるわ」と先生が教壇の上のファイルに手をかける。

中に挟んであったはずの世界史便覧に手を伸ばしたところ、其の対象が無いことを認識。「しもた。職員室に便覧忘れてきてもうた!」

ピピィィィィィィィ!!!

―『しもた』発動、タケの一位抜け確定―

次回更新は3月22日(日)、14時の予定です。

 

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