その方法とは「笑い」だというのだ。初めに見つけたときは、笑いとがんにどういう因果関係があるのか頓と見当がつかなかった。けれども、調べていくにつれて僕の理解はぐんぐんと深まっていった。

がん患者を対象に、漫才や喜劇を鑑賞させ、NK細胞活性率の計測実験をした結果、「笑い」にはNK細胞を活性させる効果のあることが明らかとなったらしい。つまり、たくさん笑えば、がんに対する抵抗力が高まり、NK細胞ががん細胞を駆逐してくれるらしいのだ。これは日本だけでなく世界的に研究されていることであることも僕は知った。

これだ。これしかない。がんに打ち勝つためには、この方法しかない。「笑い」が唯一の僕の取り柄だから。オカンを助けることができるかもしれない。極秘情報を入手するために、情報の海へ潜入した僕の密偵活動。当該スパイ活動は見事に成功したのだ。

僕は高揚した。どきんどきん、と僕の内側から叩きつけるトキメキめいたもの。打ちつけるその響きは聴くもの全てを優しく包み込むような音。高鳴るそれを僕は右掌でグッと押さえつけた。

情報教室の天井の隅っこに、ふと目を遣ると、あ、蜘蛛の巣。CIAのスパイだって顔負けの僕の観察力は掃除当番のサボタージュを見逃さない。縦、横、斜めに網羅されたそれをぼうっと見ながら、オカンを救うことを天に誓った。地獄で諦めかけていた僕へ、誰かが垂らしてくれた天へと繋がる蜘蛛の糸。

しっかりとこの手を伸ばしてそれを掴んで、ゆっくりと登っていこう。僕は、そう考えていた。

オカンを救うためには「笑い」しかない。毎日、オカンを笑わせる。失敗だーなんて許されない。必ず笑わせる。NK細胞を活性化させる。そして、オカンに巣食うがんを殺してみせる。

スキルスを殺せ。オカンを救うんだ、僕は、僕の「笑い」でオカンを救う。殺してやる。がんを殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。

次回更新は3月18日(水)、14時の予定です。

 

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何がVictoryなのかは知らないが、こちらとしては全然Victoryじゃない。

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