【前回の記事を読む】となりに座る女が注射針を腕に埋めたまま肩をすくめ、「ねえ、ちょっとそこの明かりつけてよ。暗くてよく見えないじゃん」

2. 饗宴

片方の胸をはだけた女性の腕に抱かれ、赤ん坊が急に甲高い声をあげて泣き始めた。その声で起こされたハルカが「ちょっと外の空気を吸ってくるわ」と重たい声を漏らして彼女から赤ん坊を抱え上げ、ヨロヨロとつま先で自分のスニーカーを探り当てながら玄関を開けたその隙に、シーズーが真っ先に外の暗闇へ駆け出していった。

キッチンカウンターで煙草を吸うリッキーがつまらなそうな表情を浮かべ小さく首を振ってため息をつく。

「ダイスケ、マサもせっかくだけど俺あまり食欲なくてさ。何もいらないよ。雨がまた降り出す前にすぐ戻ってきなよハルカ。たまにワニが出るからね。九番ホールの池には近づいちゃダメだからな。シーズーは裏のバンカーで用を足したら勝手に戻ってくるから放っておいていいよ」

テーブルにばら撒いた輸入品のガムを一つずつ裸にしていく。ヒカルとどれだけ遠く放れるかを競い合いながら、銀紙は背景を包み直し、中身はそのまま放置してある。いつか虫歯の治療で破産した友人がいるのだと、誰かが言ったことを思い出した。

「ねえ見て見て、いくでいくで、やっぱせぇので一緒に飛ばそか」

肌色の像が両翼の裏側に透けて見える。指先を離れるとそれは、放り出された背景の中へ一瞬のうちに飲み込まれていった。

「クソミソだぜ、お前もそう思うやろリク」

クルクルと錐揉み状に落下する飛行機を見ながら「急に俺に振るなよマサ、どうも思わないよ」と僕は軽く首を傾げてまた新たな銀紙を剥いて広げる。マサが少し苛立たしげに「なあ、エレノアちゃんはどうしたんだよヒカル。連れてくるってあれ嘘だったの?」と呆れ顔でつぶやいた。