数百メートル歩いただろうか、道の脇に開けた場所があり、そこで宿営することにした。テントを立て、簡単な夕食の準備に取りかかるころには、すっかり日が暮れていた。
木の枝から吊るしたランタンの明かりだけが暗闇に浮かんでいる。カレーのレトルトパックを温めた夕飯を食べながら、瞳は「こんなの食べるの初めて」とはしゃいでいた。
崎野が「へー、瞳ちゃんのママってきちんとした人なのね」と言うと、瞳が答える前に、城戸が「そうなんだ。冷凍食品とかは嫌いでね。添加物なんかもってのほかなんだ」と、口を出した。
食べ物に無頓着な城戸は、離婚する前、遅く帰宅してカップラーメンをすすっていると、よく妻から注意された。几帳面なところが妻の長所だったが、感情的にすれ違い始めると、そんなささいなことでも口げんかのもとになっていった。
「ママは、パパにもっとおいしいものを作ってあげればよかった、って言ってたよ」
城戸の心中を察したかのように、瞳は言った。
「ちょっと用足しに行ってきます」坂田が席を立った。
城戸の「崖に気をつけろよ」という言葉を背に、坂田は林の中へと入っていく。