【前回の記事を読む】「外海に出ると波が荒くなるかもしれん。注意しとってくださいよ。」大型の洗面器が3個、無造作に置いてあった
episode1 異変
船は女島に着岸した。といっても岸壁がないため、係留できない。
岩場に寄せて一人ずつ飛び降りるほかないのだが、波がくるたびに船が揺れるので、かなりタイミングが難しい。
坂田は「瞳ちゃん、大丈夫かい?」と心配していたが、降りるのに一番時間がかかったのは坂田本人だった。
荷物を降ろし終えたところで、城戸は船長に「万一の場合は電話をかけますから、迎えに来てくださいよ」と念押しした。
何といっても無人島だ。事前に調べたところ、男女群島で大事件が起きた事例はなかったが、大切な一人娘を連れてきているのだから、用心し過ぎることはない。
しかし、そんな心配をよそに、船長は「大丈夫、何もなかですよ。ここにはたまに釣り人が来るぐらいですけん。ばってん、オオミズナギドリは斜面に作った巣に胴体着陸しますけん、気をつけて」と言い残して、去っていった。
すでに日は傾きかけていた。四人はテントや寝袋などのキャンプ用品を担ぎ、山道を登った。
女島は面積一・三四平方キロの小さな島だ。ちょうど九州のウエストを絞って縦長にしたような形をしている。
南端の断崖上には海上保安庁の女島灯台がある。一九二七(昭和二)年から有人の灯台として職員が交代で常駐してきたが、二〇〇六(平成十八)年に自動化され、女島は完全に無人となった。
「日本で最後まで残っていた灯台守の火が消えた」と報道された記事を城戸は事前の調査で読んでいた。
四人が目指すのは、旧日本軍のレーダー(電探)基地があったという島の北側だ。基地があったため、太平洋戦争中、島は二十数回の空襲を受けたという。
最高峰は、標高二八三メートルの電探山。頂上に向かって岩場から道が続いている。道とはいっても、大戦中に軍が切り開いたもので、その後は整備されていない。
一行は、無造作に転がっている石や倒木を避けながら歩いていった。
「俺たちのほかに誰もいないと思うと、何だかぞっとしますね」
「そうだな。でも、秘境にはぴったりだ」
坂田と城戸の会話に、崎野も「わくわくしてきちゃった」と目を輝かせた。