【前回の記事を読む】「人工肛門は嫌」と大腸がん手術を拒否した母…不調が出ても「今さら受診しても怒られるだけ」と病院を拒絶してしまい…
サイコ3――奇跡の手
突然の受診だったが、千晶が専門医の確認のうえ診察してくれることになった。彼女は診察室に二人を呼び入れた。
「こんにちは。いつも麻利衣がお世話になってます。これ、よかったらどうぞ」
小百合は塩大福の包みを千晶に差し出した。
「こんにちは。こちらこそ麻利衣にはいつも助けられています。でも、病院の規則で患者さんから金品を貰ってはいけないことになっていますので」
そう言って千晶は包みを小百合に差し戻した。
「そう、残念ね。それにしてもご立派ね。こんな大きな病院で働いていらっしゃるなんて。麻利衣に爪の垢を煎じて飲ませたいくらい」
「お母さん、いいから座って」
麻利衣は母親を診察椅子に座らせた。
「今日は突然でしたので、内視鏡検査はできませんでしたが、これが先程検査した造影CTの結果です」
千晶は小百合から見やすいように画像表示用のディスプレイの角度を変えた。
「専門医にも確認してもらいましたが、S状結腸に大きな腫瘍を認めます。おそらくこれが5年前に指摘された大腸癌だと思います。それに腹膜、肝臓、肺にも転移巣を認め、ステージⅣcの状態です」
小百合は不安げな症状でCT画像を眺めていた。
「どうしたらいいの?」
麻利衣がおずおずと訊ねた。
「内視鏡検査を予約しましょう。内腔が腫瘍で閉塞してしまうと腸閉塞を起こしてしまうので、とりあえずステントを留置すると思いますが、その後で手術が必要です」
「手術って人工肛門になっちゃうんでしょ。そんなの嫌よ。絶対に嫌」
「お母さん……千晶、手術したら治る可能性はあるの?」
「原発巣を切除して、転移巣も可能なものは切除するけど、その後化学療法が必要ね」
「化学療法って、抗癌剤のことでしょ。吐き気がしてご飯が食べられなくなったり、髪の毛が抜けちゃって坊主にしなきゃいけないんでしょ。
以前知り合いが末期癌で抗癌剤治療していたけど、入退院を繰り返して、だんだん枯れ木みたいに細くなった挙句、副作用で苦しみながら病院で亡くなったって聞いたわ。
私、あんな死に方するのは絶対に嫌。それくらいだったら治療しないで自分の家で静かに死んだ方がいい」
「治療しなかったら静かに死ねるなんて保証はどこにもないんだよ」
麻利衣が叱ったが、小百合は聞いていないようだった。
「困ったわね」
千晶も閉口してしまった。