すると「道三殿の領地内で最初に謁見した際、お前もおったのう」

「あの聖徳寺(しょうとくじ)での謁見の件でございますな」

「そうよ、儂はいつもの出で立ちで行き、長槍隊、弓隊、鉄砲隊を従えて会見に臨んだあの件だ。その陣触れを見て道三の家臣が、あの大うつけでは、儂らが尾張を乗っ取ったも同然ですなと笑ったそうだ」

信長は顎に手をやりほくそ笑んだ。

「そのようなことを家臣が道三殿に申されましたか?」

藤吉郎が驚く。

「そうよ。しかし、その後だ。それを聞いた道三殿は、『馬鹿な奴らじゃ。竜興含め儂の息子どもは阿呆じゃ。信長の馬を引き軍門に降(くだ)るは、竜興自身と気がつかぬとはなんと情けないこと』と嘆いたそうだ」

そう告げる信長に、「さすが油売りから一国一城の大名にのし上がった道三殿ですな。殿の器量才覚(きりょうさいかく)を一瞬で見破ったとは、いや、恐れ入りました」

猿顔の藤吉郎は、さらに顔に皺を寄せて喜んだ。

「まあ、そんな戯言より、道三殿の体調もあまり良くないようだ。斎藤道三、帰蝶の父が存命のうちは、同盟により尾張も安泰。

しかし道三殿が他界すれば、盟約は一旦破綻になる。そこらあたりが狙い目よ」

「一気呵成に美濃を平定する段取りですか?」

「その通りよ。だがな、稲葉山城は難敵、手立てを講じる必要があるぞ」

「そうですな、そこはお任せください。敵の調略は私の得意技です。

その辺りは、既に有能な美濃三人衆と言われる、安藤守就(あんどうもりなり)、稲葉一鉄(いなばいってつ)、氏家卜全(うじいえぼくぜん)らの3人は、斎藤竜興に辟易としている情報があります。そこを突きます」

「なに、やはりそうか。それを使わない手はないな」

「御意、早速調略して引き抜きます。織田家に役立ててみせます」