とある日、天守では信長が質問をしていた。天性の性格上、聞きたいことが発生すると、信長はそれ以外は眼中になくなることが多い。

家臣は、それも天才のなせる業だと心得ている。勿論、藤吉郎もよく承知した上で一気通貫に話す特徴がある。

この日も藤吉郎は信長の勘所を掴んで即答した。

「あの本丸、周囲の石垣でござりますか? 良く信長様、お気づきで」

すると信長は、防御の門として城内に設営された巨石について述べた。

「あのような見事な巨大な石、優に8尺(2m)あまりはある。よくあれだけの巨石と量を調達できたものよ、あっぱれじゃ。

平城の小牧山とはいえ上まででかい石をよく運び上げたものよ。大儀である」

と信長は藤吉郎を褒めた。

滅多に人前で褒めぬ信長であったが、余程気分が良いのか、労いの言葉を掛けた。

「はっ、あの石垣は、岩崎山より運ばせたもの。佐久間殿と林殿に知恵と労を借りました」

佐久間と林へのお礼の言葉をさりげなく伝える。この勘所も藤吉郎は実に押さえている。

「そうか、そうであったか。佐久間と林には儂からもよく礼を伝えておくぞ」

信長は、この仕事を行い易くする藤吉郎の言葉の進め方にも感心していた。

そのため家臣団の古参の結束は一層強くなり、ある心地よい緊張感とゆとりが生まれていた。藤吉郎の実に巧みな信長と古参の重鎮への取り入り方も悦で妙だった。

まさに、一流の人たらしであり、仕事人だ。それは、信長も古参の家臣も認めるところであり、信長や重臣たちも、天下布武への道筋が一段と近づいて行く気配を感じていく。

実際、信長の天賦の閃き、合理的な思考とそれを下支えする藤吉郎の知恵と勘所のよさ、人心掌握が長けたことも奏功し天下布武の勢いを加速させていった。