「それだけは勘弁してくれ、小折城まで行ってそのことを言われては、儂の立つ背がないわ。織田も美濃も暗雲が垂れ込めていた頃だ。
織田は直系の弟、信勝派と儂の争いになっていた。儂の唯一の味方は、家老の平手の爺と叔父の信光と斎藤道三くらいだ。
その斎藤道三は息子竜興に討たれ、美濃との同盟も危うくなった頃だ、しかも肉親と言っても油断のならぬ姻戚関係ばかりだ。
信勝は、自分こそが嫡流と表明しおった。しかも裏では竜興と結んでいたことも判明した。おかげで清州城と尾張を平定するのに3年も要したわ。
その点、お主とは何の因果もない。それにお主は吉乃の信頼も厚く得ておる。3つ下の実の弟以上に絆の強い本当の弟みたいなものだ。
これからも宜しくたのむぞ。して、続きの回答は、どうだ?」
信長は藤吉郎に聞いた。
「殿にそのように言うていただき、とても嬉しく存じます。
実は、生駒家のご贔屓の方々に商いで回っていたときのことです。
先代の信秀様のご逝去と葬儀の様子を聞きました。旅の者同士の会話を宿場で耳にしたのです」
藤吉郎が言うと信長は、「なに? 儂の父の葬儀の様子と申したか?」驚いた様子で藤吉郎を見た。
「殿も承知の戦乱の世は百年続き、応仁の乱以降、嫌になるほど戦が続いています。尾張、遠江、美濃周辺も悲劇は同じです」
「承知よ。だからこその天下安寧を儂は思案し始めたのじゃ」信長は語気を強める。
「殿、百姓はそのたびにお武家様が始める戦に駆り出されます。
やむをえず農耕をやめ戦に出る者たちは、或る者は討ち死、或る者は怪我をして百姓仕事もできず。無事でも田畑は荒れ果てます。
酷い百姓になると、戦場へ強奪目的で参加し敵方の屍や襲撃された家々から金品を盗む輩(やから)もおると聞きます」
藤吉郎は激しい口調で続けた。
次回更新は3月1日(日)、19時の予定です。
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