【前回の記事を読む】「夕方の電話が最後の会話になった」…1時間後、彼女は変わり果てた姿で見つかった。帰宅ラッシュの中、歩道橋下に倒れていた。

第二章「雫との出会い」

「はい、そこ。おしゃべりは終わりね」

『……すみません』

隼人と目を見合わせて姿勢を正す。入学初日から注意されてクラス中の視線を浴びるのはちょっと居心地が悪いけど、優しそうな先生で怒ってはいないみたいなのでほっと胸をなでおろす。

明日からの時間割や持ち物などの説明が一通りされると、ホームルームはあっという間に終わり帰宅の時間になった。

 

「あの子、雫ちゃんっていうんだって」   

「どの子?」

「だからー、俺の隣の子」

肩かけのスクールバッグをリュックのように背負いながら、僕の前を歩く隼人がくるりと振り向く。

「名前まで可愛いよな」

「いつの間に聞いたんだよ」

「先生が配った座席表に書いてたんだ」

へへっと、いたずらな笑顔の隼人は相変わらずこの手の話をするときは楽しそうだ。ほとんどが顔見知りだから座席表なんて見ていなかった。

帰ったら見てみよう、なんて思いながらふとわき道の方を見ると噂をしていたあの子が桜の木を見上げて立ち止まっている。

「……いた」

「何が?」

「隼人の隣の……雫さん?」

「えっ?」

目を丸くしてとっさに僕の背中に隠れようとする。どうしよう、どうしたらいいかな、

とそわそわしているのがおかしくて、隼人の背中を押したり腕を引いてみたり、ちょっとだけいたずらなんかしていると、そんな僕たちに気づいた彼女が静かに歩み寄ってきた。

「えっと……同じクラスの……黒田透くんと佐竹隼人くん……?」

「え、どうして名前……」

二人して驚いた顔でいると、ごめんなさいと小さく胸の前で両手を振って、真っ赤な顔で彼女は続ける。

「クラスに知っている人が全然いなくて……だから座席表を見て早く名前を覚えようと思っていたの。びっくりしたよね」

そういえばホームルームのときは不安そうな顔をしていたもんな。だからってこんな短時間で名前を、しかもフルネームで覚えてしまうなんて、最初に思った真面目そうというイメージは当たっていたようだ。

「俺! 佐竹隼人!」

「いや、だからもう覚えてくれてるから」

「あ、そっか。隣の席の」

「それも知ってるだろ」

僕たちのやり取りを見てふふっと、彼女が口元を小さな手のひらで覆い微笑む。初めて見た笑顔に、隼人が可愛いと言っていた理由が少しわかったような気がした。当の隼人は僕の横で気をつけの姿勢で硬直しているけど。