わたしより少し年上に見えた娘の方はもうそばにはいなかった。

「わたしの家は父と母が小さな雑貨屋を営んでいたの。わたしが中学生の時、病弱の兄が亡くなって家族はとても悲しい思いをした。

高校生の時、バスの中である大人の男性に出逢ったの。彼はわたしに一目惚れした。

彼の名はヘンリーというのだけど、とてもたくましくハンサムで優しかったから、わたしもヘンリーが大好きになったわ」

お婆さんは話し続けた。

「二人は恋に落ちたのね。わたしは初恋に夢中になったの。高校を卒業したら結婚しようって言ってくれた。貧しい時代で暮らしに必要なものは思うように揃わなかった。

でも、二人の気持ちが通い合っていることが何より大切だった。両親はすんなり認めてくれなかったけど、ヘンリーの熱意にほだされて結婚を許してくれた。

父は彼に一つだけ条件を課したの。日曜日に必ず教会へ行くこと。ヘンリーは同意したわ。

同じ教会へ行けば週に一度必ず会える。それで娘が幸せかどうか確認できるって」

お婆さんには子どもが三人いた。長女のアンを産んだのが二十歳の時。

二十二歳になって長男チャールズが生まれ、末娘になる次女エリザベスを産んだのは二十七歳の時だった。

「あれ、さっきまでいたのにリズがいないわ」

お婆さんはあたりを探したが、末娘の姿は見当たらず、少し慌てた顔をして見せた。

リズさんはロビーの反対側の空間で、一人本を読んでいた。

 

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