『V⇔R』は当時のリアルな世界をクライアントに体感させることで、その記憶を炙り出そうとしているのではないか。でなければヒアリングで話していない教会が出てくるはずもない。
あのまま逝きたかった。思いながら、4時間の小旅行を終えた。
2031年3月11日。
久しぶりに帰った故郷の海は静かだった。VR機での旅行を終え1週間が過ぎていた。今日は愛子の命日だ。今までずっと故郷も、この海も避けてきた。しかしあの体験を経て、事実と向き合う覚悟が工藤にもできていた。
そして。工藤はあの教会の前に立っていた。あの日、愛子が本当にここで死んだのかはわからない。彼女の遺体は海岸沿いで発見された。だが信じてみるのも悪くないと思った。教会は被災したあと改築されたが、あの樅の木だけは残っていた。20年ぶりに会う年老いた牧師に事情を説明し、樅の木の根元を掘らせてもらった。
オルゴールはなかなか見つからなかった。幼少時代に埋めた時は深くまで掘らなかったから、やはりあの日、愛子が深く埋めてくれたのかもしれない。やがてみつかったオルゴールに触れると、流れる涙をどうすることもできなくなった。
当時、愛子にあげたおもちゃの指輪はちゃんと残っていた。彼女はそれを薬指にはめることなく逝ったが、あの日、どんなことを思ったのだろう。
そしてオルゴールの底には封筒もあった。死ぬ直前に愛子が書いたものかもしれない。工藤は封筒を開けた。三つ折りにされた薄緑の便箋を広げる。そこに綴られた柔らかい文字は、確かに懐かしい愛子の文字だった。
シュウ、なんだかわたしね、ずっと怯えてる。
優しい家族と、大好きな友達に囲まれて暮らしているのに、どこかでいつも怯えてるんだ。
『おれは東京に行く』初めてシュウに告げられたのは、二人が中学二年生の時だったよね。こっちの気持ちも考えず、航海を前にした船乗りみたいな顔して、大真面目に夢を語ってた。