【前回の記事を読む】「天上界の人間は、地上界の人間と同じようにみえたかもしれませんが、肉体のない、霊体だけの人間です。いや、神なのです。」

承の章 古事記(こじき)(天上界)

事物(じぶつ)になれる神

十五、

この話のなかで、示された神々の名は、あるがままに、貴の神の記憶のなかに溶け込むようであった。

我の神は、感慨深げに申された。

「伊弉諾の尊の霊力によって、稗田阿礼から、あれの命、そして、我の神と化神(けしん)(人から神になること)して、どうにか、ここまで同行ができました。不十分な説明で失礼しました。これから先のことは、頭の中にはありません。いずれにしても、伊弉諾の尊の意にしたがってまいります」

貴の神は、我の神との別離とは気づかずに、感謝の念を込めて、答えた。

「伊弉諾の尊の霊力によって、ベッドのなかの私から、かりそめの命、貴の神となり、そして、我の神による、懇切なご案内と、ご指南に、なんと御礼の言葉を述べていいのかわかりません。

不束者(ふつつかもの)(無骨な人)を相手に、ご苦労をかけてしまい、申し訳ありませんでした。これからも、よろしくお願いします。ありがとうございました。まこと、にありがとうござい……」

と、いい終わらないうちに、貴の神は、別格の天つ神(五柱)の山々に、吸い上げられるように、舞い上がったのである。

天地(あめつち)になれる神

十六、

「餘(よ)(われのこと)は、あめのとこたちの神なり。そなたは、これより、素(もと)の神と名乗れ」

貴の神の朦朧(もうろう)(ぼんやりしたさま)とした頭のなかに、一瞬の光が、走った。

その光は、言葉となって、貴の神に、このように伝わってきた。

まわりは何もない。しかし、何かがあるという雰囲気(ふんいき)(まわりの空気)があった。

──我の神は、もう、すでに、いない。

また、頭のなかに、一瞬の光が走った。

「素の神よ、そなたは、別格の神なり。すべてを見透(みとお)す神力をもって、これより事物の根源の国へまいれ」

その光は、このように仰せられた。

素の神(前の貴の神)は、我の神とともには、みえなかった事物の根源の国へ、自由自在の神足と、透徹(とうてつ)(見透すこと)した神智をもって、再び、赴くことになったのである。