見つかった家は立派な戸建てだった。コンクリートで造られたと思われる二階建てのそれは、最近建てられたもののようにも見える。そうだとしたら、遥香の家はもう引っ越してしまっており、ここに越してきた別の所有者が建てた家なのだろうか。地図アプリからは家の表札は確認できない。それを知るためには、実際に行ってみるしかない。

僕はまたあの場所に戻れるだろうか。僕を育ててくれたあの場所は、僕にとって大切であると同時に、絶対に戻りたくない場所でもある。それは両親の存在に他ならない。父と母のせいで、僕はあの地域全域を憎んでしまった。関係のない人や場所まで、僕の中では消したい過去なのだ。今の僕にあそこに戻る覚悟と勇気はあるか? そこまでしてでも、遥香を見つけたいか?

もとは就職活動の一環で思い出したに過ぎなかった。遥香のことを知らなくても、僕は生きていける。わざわざ自分の嫌な場所に向かう必要があるのか。僕は僕の心に問う。でも、そんなことをする前から答えは出ていた。僕が遥香の家の場所を早川に訊ねたときから、僕の中には明確な覚悟と勇気が芽生えていた。

第四章

駅に近づくにつれて、僕の緊張は高まっていった。心臓の鼓動が速くなり、音も大きくなっていく。悪いことをしているわけではないのに、なぜか手が冷えて、足が宙に浮いているような感覚に陥った。僕を乗せて運ぶ電車は、そんな乗客がいることなど知る由もなく、淡々と業務をこなしている。

やがて僕が恐怖と捉えた田舎町が見えてきた。青空を突き動かすかのような山々と、そこから広がる田んぼ、色鮮やかで綺麗で澄んだ空気がここにはある。

僕の恨みの感情などまるで気にしていないように、車窓には元気に公園を走り回る小学生が二人、瓦屋根が連なる住宅地ではベビーカーを押す母親、家の前でサッカーボールを蹴って遊ぶ子供と親、僕の目には三年前となにも変わっていない、懐かしい光景が広がっていた。どうしてだろう。

不思議なことに、この地に足を踏み入れることを嫌がる自分とは別に、この地をどんなふうに散策しようかと考え始めている自分がいる。僕は帰ってきたかったのだろうか。

電車は減速し、徐々に駅に近づいていく。あいかわらず、人がいない寂れた駅だ。わずか三年でさらに寂れたように感じる。でも、降り立って思う。自分はこういう駅が好きなんだと。セミの声に身を包まれ、澄んだ空気を吸って、駅を出る。東京にいたらきっとこんな想いはしないんだろうな。そう思うと、少しだけ自分の故郷を誇りに感じられた。

次回更新3月3日(火)、11時の予定です。

 

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