【前回記事を読む】真面目にやっているのに失敗する新規事業──野球とサッカーほど違う? 大企業が選んでしまう「参考書」の正体
1章 大企業が繰り返す茶番劇の正体
新規事業版「悪魔の証明」
この項目では、大企業がつまずく代表的・典型的な問題に触れます。
一言で言えば、「一歩目を踏み出せない問題」であり、私はこれを新規事業版の「悪魔の証明」状態と呼んでいます。
すでに伝えてきたように、大企業は然るべき理由を持って、慎重なプロセスを構築しています。承認がないとPoC(新しいアイディアや技術の可能性を探る取り組み)も始められません。
当然、新たな事業創造担当者は、新たなアイディアの正当性の承認を得るべく、さまざまな事例や根拠らしきものを付けた事業計画書を作り込み、それを承認者に説明する必要があります。
ただ、慎重になることを義務付けられ、その考えに沿って昇進してきた承認者は、淡々と新規事業に対するリスクを述べる。いや、述べ続けるといった表現のほうが合っているかもしれません。それに対し、事業創造を進めたい提案側は一つひとつ答えようと躍起になります。
しかし、承認者はそれでもGOサインを出せない理由を述べ続けるのです。このラリーがいつまでたっても終わらない。
そして、ラリーの間隔が延び始めた頃に頓挫へのカウントダウンが始まります。
これが、新規事業版「悪魔の証明」のサイクルです。
ここで、重要な問いを投げたいと思います。
これまでに共有してきた内容を踏まえて回答してください。
「未知への挑戦である新たな事業創造領域において、構想時点で慎重な大企業がGOサインを出せるほど精緻な事業計画書を作り込むことは可能でしょうか」
答えはノーです。リスクのない儲け話はありません。誰もが知っています。
そして、未知のことである以上、完璧にリスクを具体化しそれを抑え込める確証を持つことはできない。これも誰もが知っていることです。
スタートアップの初期の資金調達の場面であれば、将来が分からない不確実性が望まれることがあります。
なぜなら、完全に予測できる将来に初期投資の動機となる「わくわく」は生まれないからです。しかしながら、大企業は構造上、すべてのリスクを具体化かつ最小化した状態でないと正式な一歩目が踏み出せません。
一方で、どれだけ頭をひねっても、デスクトップ調査を続けても、計画書の見せ方を変えても、未知のものについて、さらに言えば新しくて大きな売上を狙うものについて、構想時点で失敗する可能性が極めて低いと言い切ることは不可能です。
根拠を並べ、誠実に語れば語ろうとするほどに、解きようのない命題ということに気がついていく。そして、ラリーが長引くに連れ、担当者の熱量とレビュー者の優先度が下がっていき、向かう方向が怪しくなっていきます。