【前回の記事を読む】止まった心臓に心臓マッサージからPCPSまで――あらゆる手を尽くした結果、手術室では……

罪の行方 心臓手術が救った二人

手術室を出る前に、麻酔科の先生にお礼を言った。「無理を言って申し訳ありません」と言ったら、「目が覚めるといいですね」と言ってくれた。手術をしている間に、彼も、この若い男性を救いたいという思いを共有してくれたんだと私はその時感じた。

そして、この患者が20歳代の若い男性であることを改めて認識した。心停止の状態になって、心臓マッサージをしていた時間が少なくとも20分以上、おそらく30分ぐらいあった気がするので、中枢神経が障害を受けて蘇生後脳症になって、意識が戻らないかもしれない。意識が戻っても、大きな障害が残るかもしれないとその時は思った。

集中治療室に患者を移送するために、手術室からICUにPCPSを装着したままゆっくり、慎重に移動して、ICUの所定の位置にランディングした。ICUの看護師数人で点滴ラインの確認や、ICUの人工呼吸器、血圧・心電図などのモニターを手早く装着し、手術室からの申し送りを受けていた。

手術室での手術の経過やその問題点なども速やかに受け取って、ICUでの医療に移行した。患者がICUで落ち着いたのを確認した後、この患者の家族が、待合室に待機していないか確認した。家族がICUの外の待合室に来ていることを確認し、ICUの看護師長と私は連れ立って面談室に入室し、手術後の病状説明を行った。

手術室で行ったこと、心臓は今すぐに自分の拍動で循環を維持することはできないと判断し、心臓の拍動を補助するPCPSを装着したまま手術を終了し、ICUに移送したこと。今装着しているPCPSから離脱できる可能性があることを説明した。

一方、長い間心臓が止まっていたので、中枢神経の障害がある可能性が高く、意識が戻らない場合には、結果的に命を救うことができないかもしれないことなど、今後の見通し、予測を説明した。

ご家族への説明を終えて、ICUの控室に戻っていくと、そこにいた看護師や臨床工学技士たちが、なにか悲しげに言葉を交わしていることに気が付いた。

「どうしたの、何かあったのか?」

「この若い男性がどうして胸を刺されたのか、手術中にこの事件の関係者から話を聞いたんです。それがあまりにも悲しく、せつなくて……」

一人のベテラン看護師がゆっくり話し始めた。