【前回の記事を読む】縁談に“難あり”で…仲人にお詫びをするために訪ねたのは、寂れた町だった。ある老婆に家に誘われ、ついていくと…
老話
交差点
今日まで、ただ一人で苦しみを抱えてきた。本来なら私は被害者だ。でも家族のことを考えると、解決できるのは、いまは自分しかいない。何度も自問自答して行動を起こしているのだ。
「これ飲むと心が落ち着くわよ」
加代が温かいコーヒーを煎れて持ってきてくれた。濃いめのブレンドだ。香ばしい匂いが喉をうるおし、気持ちを落ち着かせる。
「妹がつわりがひどく、家で養生しているんです」
睦子は涙の訳を話す気になった。いままで誰にも話せなかった身内の裏話。洗いざらい加代に聞いてもらいたい。この女性なら話をしても大丈夫と、衝動的に判断していた。
妹の相手は何と睦子の婚約者、光男だった。
睦子は友人の紹介で光男と知り合い半年前に婚約、来春結婚式の予定にしていた。彼の勤め先は三流大学、しかも地質学という地味な研究ながらそろそろ准教授の候補に挙がってもおかしくない年齢だった。
研究内容と同じで彼も無口、真面目が取り柄の青年で、仲人は白髪神社の三峰さんにお願いし、結納も済ませていた。婚約した気安さから光男は毎日顔を出し、家族と一緒に夕飯を食べていた。
妹は咲子といい、容姿も学校の成績もトップクラスで、すれ違った人が振り返るほどの美貌の持ち主だ。言い寄る男性も大勢いて、相手に不自由はしていなかったはず。それに引き換え睦子はお世辞にも美人とは言い難いおかめ顔、スタイルも典型的な日本人で胴長短足、丈夫が取り柄の平凡な女性だ。私が勝てるものは何もない。
しかし咲子は睦子の大事にしているものをなぜか欲しがった。そして洋服でもアクセサリーでも咲子が身に着けるとよく映えた。自分は姉だからと、妹のわがままを素直に受け止め、譲ってきた。それが睦子の婚約者にまで及んだのだ。咲子の体調不良が妊娠のせいとわかり、しかもすでにかなりの月数になっていて、中絶は考えられなかった。
事実を知った両親はショックを受け、父親に至っては倒れてしまった。
なぜ光男なのか、睦子が問いただすと咲子は開き直り、睦子の知らなかった睦子の出自の秘密を暴露し投げつけてきた。
「あなたは私たち家族の中ではただ一人他人なのよ。父も母も末妹の菜々とも血のつながりはないわ。つまり養女ということ。里子だったのよ!」