「宮大工さんになるには、どれくらいの修行が必要ですか?」ジョージが訊ねる。

「10年といわれています」

「お弟子入りするひとたちも、覚悟がいりますね」アッちゃんが、学びの年月を想像する。

「宮大工を目指す若い衆は、おかげさまで、腹を決めてウチに来ます。ただ、いまの学校だか、世の中の成り行きだか、コツコツとわかろうとするより、手早くできればよいと思うひとが増えました。じっくりやってきたことは、50代を越えてから、腕に染み出します」

「なかなか待てないんですよね。世の中も急かすばっかりですし」YOさんにも想うところがある。

「あんたは、いい修行をしただろう。〈穴掘り三年、鋸五年、墨かけ八年、研ぎ一生〉。親父さんは厳しかったね。そのおかげだよ。今度は、それを誰かに伝えないとな」

棟梁が、町場で一生懸命働く後輩の太い腕を、軽くぽんと叩く。YOさんが小さく頭を下げた。

「親父が死んでから、親父の言葉を、よく思い出すようになりました」

ジョージが匠に、照れながら話しかける。

「棟梁さん。ボクは、職人さんというのは、道具を使う技術専門のひとだと思っていました。でも今日、お話を聴いて、技術の背景にある歴史文化にも、深い知識をお持ちなんだとわかりました」

棟梁は、ゆっくり静かな声で、若いひとたちに語りかける。

「道具づかいは、もちろん大事です。ただ、宮大工は……」