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第四章 過去にひそむ未来
茂岡棟梁は席に戻りながら、ちょうど厨房から出ていたタエさんに声をかけた。
「こちらの料理は、あなたがつくっておられるんですか?」
「はい。お口に合いますでしょうか」
「おいしいです……ぶしつけな話ですが、むかし、京都の伏見を下ったところに、よく行く料理屋がありましてね。〈漂〉というお店でしたが」
タエさんが、目を丸くする。
「わたしの伯母が、先代の女将でした」
棟梁は、ゆっくりと静かに、頭を下げた。
「弟子入り先は京都に現場が多くて、よく先輩に、伯母さまのお店へ連れて行ってもらいました。私はむかし、跳ねっ返りでね。誰からも叱られておりましたが、女将さんは根気よく、味も礼儀も教えてくれましたわ。マヨネーズで、思い出しました」
「あら、棟梁さんは、マヨラーですか?」
「あそこの女将のせいです。この味は、忘れませんわ。わははは」
「わたしが伯母から教えてもらったのは、サラダのマヨネーズは自分でつくること。あとは出汁巻き卵ぐらいなんです」
「出汁巻きか。よくいただきました。実山椒が横にのって」
「どうかまた東京においでの際には、わたしの出汁巻き、召し上がってみてください」
「ありがとうございます。今度は懐かしい話でも、させていただきます」
棟梁が席に戻ると、大テーブルには、おだやかな敬意に満ちた空気が戻る。