その七 家族病
彼が膵炎で十数回入院を繰り返したことについて綴ります。
⑥ カナヅチ事件
例によって、彼は酒に酔って急に荒れ始めました。逃げ回る私は、風呂場に逃げ込みました。バカな行為です。逃げ場を失ってしまったのですから……。
彼は風呂場の脇の物置からカナヅチを取り出し、それで私の頭を叩いたのです。真っ赤な血が頭から流れ出て風呂場に滴り落ちました。もちろん、いくら何でも力いっぱい叩いたのではないでしょう。頭皮は切れやすく出血したのですが、血はなかなか止まりません。
脱衣場にあったタオルで押さえ、何枚も替えました。消毒しなければと、中学生の長男に「赤チン」を持ってきてもらい、傷口に塗ってと頼むのでした。
「どうしたの?」と、きっと不安な気持ちを押し殺していたのでしょうね。そっと声をひそめて聞くのです。何とむごいことだったのか。心が凍る思いです。
朝になり、ようやく血も止まりました。髪の毛には血がこびりつき、乾いた血の塊でガバガバになってしまいました。それを、ブラシで梳いて落しました。髪の毛を濡れタオルで拭き、それから、子供たちに朝食を食べさせて、何食わぬ顔で出勤していた私です。
私のとった行動も、彼の行為も正気の沙汰ではないでしょう。私の心の中はどうなっていたのか、何なのでしょう。