【前回記事を読む】認知症がひどい老人ホームの利用者…鍵のかかった窓をこじ開け、裸足のままどこかへいなくなった——従業員総出で探し回ったが…

第1章 利用者さんとずっと一緒

生活習慣病を薬で治す?

糖尿病・高血圧・高脂血症・痛風などの生活習慣病は、まず食事療法や運動療法を行う事が原則です。

ある施設では、入所者さんが夜な夜な食堂に出没する、という事が頻発しました。夜勤のヘルパーが見回りをしている時、利用者さんが部屋にいなくなっているので、担当の看護師に電話で相談したところ、

連絡を受けた看護師は、「きっと食堂にいるから探してみて。いたら何か食べ物をあげて」と伝えてきました。

食堂を探してみると、翌日の朝食のパンをジャムもつけずに食べている利用者さんを見つけました。なぜこのような事が起こるのでしょうか。この利用者さんは糖尿病を患っており、毎日1回インスリンの皮下注射を打っています。

血糖値は100─120、HbA1c(糖尿病のコントロールの指標になっており4・6-6・2が基準値)は、6・5程度でコントロール良好です。インスリン注射をしなければ、この人はおそらく血糖値は200~300、HbA1cは10以上あるだろうと思われます。

それではなぜ夜な夜な食堂に出没するのでしょうか。それは医師が優秀なため、血糖値を正常に近い値にコントロールしているからです。血糖値が下がってくれば当然の事ですがおなかがすきます。

施設では夕食を食べてから、10時間近く食事をせず朝食を待つ事になるので、認知症の人は空腹に耐えられず、食べ物を求めて徘徊する事になります。

高齢者の血糖値を厳密にコントロールすると、体調が悪くなる事がよくあります。できるだけ薬の量は少なく、生活習慣で糖尿病と付き合うほうが長生きできます。

下の血圧が高いので治療してほしい、と受診される患者さんもいます。血圧の上が132、下が94程度です。このような方に血圧の薬を出せば、下だけでなく上の血圧も下がり、ふらついたりめまいを起こしたりします。

その事を説明しもう少し運動や食事で様子を見ましょうというと、薬を出せと怒り出す患者さんがいます。

下の血圧が高い人にお酒の量を聞くと、たいてい毎晩晩酌をしていると言います。夜お酒を飲むと水分過多になったり、血管内の浸透圧が上がり血管に負担をかけたりして血圧が上がってきます。

毎晩そのような事が続くと徐々に下の血圧が上がってきます。このような患者さんにはアルコールを減らし、体重を2、3kg落とすだけでも血圧が正常になりますよ、と説明しています。

生活習慣病の薬は治すのではなく、見かけ上検査値を基準値に戻しているにすぎません。年を取れば認めたくないかもしれませんが、体にいろいろな不具合が出ます。

若い時のように時間が経てば自然に治る、という事はありません。薬に頼るのではなく、薬とうまく付き合い病気を持ったまま人生を楽しみましょう。

一病息災とはうまくいったものです。