二十歳になった頃には実直(じっちょく)な一人前の坑夫となった。その後、気立(きだ)てのいい東田村の農家(のうか)の娘(むすめ)、良子 (よしこ)と結婚(けっこん)した。良子は、人柄(ひとがら)がいいだけではなく、子供の頃から頑張(がんば)り屋(や)だった。勉強などほとんどしない東田村の小中学校で優等賞 (ゆうとうしょう)を取るなど評判の娘だった。
村人は、
「良子が、東田村に生まれなければ大学に行って学校の先生になれたのに……」と悔(くや)しがった。
当時の東田村にとって、学校の教師は最も尊敬(そんけい)され崇高(すうこう)な聖職(せいしょく)とされた。
夫となった佐々木洋一は心の中で、
(俺には、もったいないほどの妻だ。ありがたいことだ)と思っていた。
二人は、なかなか、子宝(こだから)に恵まれなかった。もう子供が生まれないのではと諦(あきら)めかけた時に生まれたのが正夫だった。
堅物(かたぶつ)の父洋一も、あまりの嬉しさに、我(われ)を忘(わす)れ、
「やったぞ」
と歓喜(かんき)の声を上げた。