「爺ちゃん、そんなんじゃあ人間なんて絶望的(ぜつぼうてき)じゃないか」

「確かにそうだ。でも、『俺は完璧な人間だ』などという奴がいたら笑いものだよ。どんなに勉強し自分を磨(みが)いても人間は人間だ。完璧な人間にはなれない。その点を理解し、謙虚(けんきょ)になれということではないかな。人間が勉強する大きな目的の一つとして、棘(とげ)によって他人を傷つけたり、毒を吐(は)いたりしない人間になることではないかな。

正夫の尊敬する青柳(あおやぎ)先生といったかな。青柳先生だって毒を持っているはずだ。でもなあ。子供たちと接する時、頭でよく判断し、子供たちにためになる言葉や行動を選択(せんたく)し、害となる言葉つまり、棘や毒となる言葉を吐(は)かないで、自分で吞み込んでいるからではないのか」

「青柳先生がいなかったら学校なんか行かないよ」

「でもなア、正夫、このワルナスビには見習(みなら)うところがいっぱいあるんだよ。ナスと付いているからナス科の植物だ。花がそっくりだ。

この仲間(なかま)には、野菜のナス・ジャガイモ・トマト・トウガラシ・ピーマンなどがある。これらの野菜は食べたことがあるだろう。同じナス科であってもワルナスビには、アルカロイドという人間の健康を害する毒がいっぱい入っている。その上、棘があり、痛(いた)いったらありゃしない。取っても、すぐ生(は)えてくる。凄(すご)いもんだ。

正夫、いいかな。この『生命力(せいめいりょく)』だけは見習(みなら)って損(そん)はないよ」

清水の爺ちゃんは、まるで授業のように正夫に説明した。

正夫は、とても、ワルナスビの真似(まね)はできないと思った。それでも、ワルナスビに対していくらか、尊敬(そんけい)の念(ねん)と親近感(しんきんかん)を持てる気がした。

せめて、自分は「生長不良(せいちょうふりょう)のワルナスビ」にでもなれればいいと思った。

天候などの環境(かんきょう)が変わるとすぐ病気になってしまう。クラスの悪ガキから、ちょっと意地悪(いじわる)されただけで学校を休んでしまう。

その夜、正夫の両親が仕事から帰り、夕食後(ゆうしょくご)、一休みをしていると清水の爺ちゃんがやってきた。

勉強のことや散歩のことをあっけらかんと話していた。

「ほら正夫、こんなありがたいことがあるだろうか。頭を下げろや」両親には、涙が出るほどありがたいことだった。

次回更新は2月25日(水)、11時の予定です。

 

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