転職

朝の柔らかい太陽の光が、都会的な高層ビル群に反射してまぶしい。美しい街並みだ。電柱はなく、建物のカラーはスカイブルー調に統一され、屋上広告物も見られない。街全体で統一感ある景観だ。

この横浜みなとみらい地区は、一九八三年から再開発が始まった。横浜港に面している横浜造船所跡地を中心とする一・八六平方キロメートルの広さだ。

街のコンセプトは、国際文化都市、情報都市、人間環境都市、としている。約二千の事業所のオフィスがあり十三万人が活動している。

月曜日の午前十時、社長秘書の白川洋子が、社長決裁された黒バインダーの書類を持ってきた。

「設備計画案の決裁が下りました」と言いながら、白くて柔らかそうな手に持った、バインダーを渡してくれた。彼女が近づくと、お風呂上がりの清潔感のある優しい香りがする。総務課員の富永太郎は少しドキドキして、バインダーを受け取った。

「もう一件、別の伺書が上程されているはずですが、それはまだですね」

「今は、この書類だけです」

富永は、わざわざ質問する必要はなかったが、彼女と会話をしたくて聞いた。

社内通知書、報告書、連絡書、等の文書類のほとんどは、電子メールで行われている。しかし、社長決裁は各種の配慮で文書決裁となっていた。仕事の関係で、一日に一度か二度、書類の受け取りや行事日程の確認等で、社長室受付に行き、彼女と会話できる立場にあった。

まさに役得であり、自分でもラッキーだと思った。

総務課員は、十名在籍しており、そのうち四名が女性だ。彼女は、総務課所属だが、社長秘書なので別枠になっている。

他の総務課の女性社員とは気軽に会話ができるが、社長秘書と話す時は、つい、意識してしまう。もう、二十七歳を過ぎたのに奥手だ。同じ課の島田利香は、白川洋子と同期生で、二十四歳だ。

島田とは冗談を言い合い、意識しないで世間話ができるが、白川は雰囲気が少し違う。東京のお嬢さん大学を卒業したという噂だ。二人姉妹の姉という。

先輩からは、彼女にアプローチしているのは多いから気をつけろ、と忠告された。

 

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