その一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく)にはいっさい無駄がなく、何の迷いもなくむしろ清々(すがすが)しい様相(ようそう)だ。

私は剣を抜き、男の顎下(あごした)に添わせグイッとその顔を上げた。久しく合わせることのなかったその両の眼は、ほんの一瞬私に向けられ、射抜(いぬ)くような鋭い色に変化した。

ああ、この眼だ。北方の異国の神秘の、どこまでも蒼(あお)く冷たい氷結の瞳。そしてその奥にくすぶる燃える炎をついに見つけた。

これが見たかったのだ――。

「命乞(いのちご)いをして見せよ」

私の言葉で男は、立てていた右膝も下ろし、両手のひらをも冷たい石畳に付け伏した。

その時、後頭部で縛られていた長い頭髪の一房(ひとふさ)がはらりと肩に落ちた。その男の性癖(せいへき)を表すかのように静謐(せいひつ)で真っ直ぐで、何にも染まることのない高潔さの象徴のような銀色の髪。

この期(ご)に及(およ)んでも表情一つ崩(くず)さない。ただ次の指示を待つのみだ。

長剣を外し、膝を折り、床に手を突き、言われるがままに私の足元に伏す男。この男の生命は今この瞬間、私の手の中にあるのだ。

腹の底から湧き上がる烈情(れつじょう)が胸部で肥大(ひだい)し、激しく忙(せわ)しなく心の臓を打ち始め全身が痺れる。熱を帯びた電流が手のひらから指先からじんじんと溢(あふ)れ出した。

烈火(れっか)に当てられても溶解しない強靭(きょうじん)な氷結晶ならば、めらめらと燃えたぎる炎の中に落としてしまえばどうだろう。

泥濁(でいだく)した無秩序な感情の渦中(かちゅう)で、失望を超えて、捻(ねじ)れた歓喜を呼び起こす。このままでは、私はこの男の身体を引き裂きズタズタにしてしまう。

するとその時、銀灰色の伝書フクロウが一羽、玉座(ぎょくざ)の囲いの脇のいつもの定位置に舞い降りた。羽根先を朱色に染めた伝書フクロウは、よほどの火急(かきゅう)の事態を意味している。

また、戦いの火蓋(ひぶた)が切って落とされたのだ。

「お前を最前線の指揮官に任命する」

「はい、仰(おお)せのままに」

 

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