そこから点々と足跡が刻まれている。辿っていくと、観光案内所の入り口に達していた。地面から目を上げる。観光案内所入り口ドアのはめごろしのガラスが粉々に割れている。「イノシシは最初、そこにぶつかったようです」

側にいた中学生女子が言った。

「ガラスの割れる音がして、私が住居から出ると、イノシシがこちらに振り向いて、襲い掛かってきたんです」

「そうだったのか」林は散らばっているガラスの破片を見た。

「こんなに分厚いガラスを割っちゃうくらいだから、よほどの力だったんだろう」

林は思い返した。

今日の昼過ぎ、係員が出勤してこないので、カリカリしてこのドアを揺すった。しかしドアは、開くどころか、ガッチリ閉まって微動だにしない。普通のドアよりも頑丈に作られている。

そのドアがこの有様なのだ。

「怪我の功名だな。これで中に入れる」いつの間にか後ろにいた早坂が言った。沼田も一緒である。

早坂はガラスの割れたドアの奥を覗きこみ「お前と泉が言った通り、安全確保が第一だ。あのイノシシ、またやってこないとも限らないし、他にもサルやシカなんかも来るかもしれない」

「しかも、いつ何時(なんどき)やってくるともしれない」

「その通り。とにかく、逃げ場所を確保する必要がある。そんならこの観光案内所こそ最適じゃないか。何しろ頑丈な現代建築だからね。昨日から施錠されて中に入れなかったが、これでここを活用できる」

「でも、さっきのパニックを考えると、一度にみんなが逃げ込もうとしたら、この狭い入口じゃどうしようもない」林の言葉に早坂は考え込んだ。

「動物というのは、基本的にみんな同じなんだが」沼田が言った。

「とりわけ野生の動物は、大きな相手には近寄ろうとしないものだ。弱い動物たちの身の守り方は共通している。集団でいること。例えば小魚なんかは、群れで行動して自分を大きく見せ、サメを追っ払う。我々もひとかたまりになって行動し、大きく見せて相手を怖がらせればいい。そしたらイノシシは警戒して向かってこない――かも」

「なるほど」林は納得した。

「何事も行動する時はグループ単位で行うことにしよう。単独行動は極力避けて。野生動物が襲ってきても、寄り集まって踏ん張る。観光案内所に逃げ込む時も、我先にではなくグループ単位で整然とやればいい」

「少なくともパニックにはならないな」早坂も同意した。

「いろいろな危険を想定して、あらかじめ回避方法を決めておこう。もっと付近の状況が分かってきたら、その都度本格的な安全策を考えよう」

分かってきたら――この言葉に林は唾を飲んだ。

この状態がいつまで続くかと思うと、息苦しさを覚えた。

試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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