【前回の記事を読む】駅前で地べたに座っていると、脚を強調した自慢顔の女に「何してるの?」と話しかけられ…「わかりやすいバカな女」

言葉のサラダ

「久しぶりね。なんだか大人になっちゃってビックリしたわ」夏海は素直な感想を述べた。

「お母さんも全然変わらないですね」

これは社交辞令だろうと思いながらも、「こんな場所でお母さんはやめてよ」と、自然と視線を徹から外してしまった。「大学はちゃんと行っているの」夏海はどんな会話をすればいいのかわからず、母親みたいな口ぶりで言った。

「はい、ちゃんと行っています。ここはバイトで週に二度ぐらいしか入っていませんから」言葉遣いはあの頃と変わっていないなと夏海は感じた。

「今日は無理矢理来て頂いたみたいで、すみません」

「いいのよ。たまには息抜きも必要だしね」

飲み物を作りグラスを差し出してきた徹の指は、女の子の様に白く華奢(きゃしゃ)だった。綺麗な指、そう感じたことに少しの罪悪感を覚えた。

夏海のタバコに火を点ける徹の仕草も様になっている。ライターの火のわずかな灯りの中で、二人の顔が影絵のように揺らめいた。

ゆらめきの中に存在する人は娘のかつての交際相手だ。そして、夏海より三十程若い男性だ。罪悪感を抱くのは当然のこと、と夏海は自分に言い聞かせ渡されたグラスを手に取った。

隣の卓には若くて可愛らしい女の子が、酔いに任せホストにしなだれていた。卓の上には飾りボトルが何本も並んでいる。

「ねぇ、あの隣の女の子凄いね」

夏海は徹の耳元に寄り添った。こうして耳元に寄り添わないと声が届かないのは、ホストが客の耳元に寄り添うことを自然に見せる手段だ、とのちに徹から聞いた。

「あぁ、あの子ですか。あの子はこの店のナンバーワンの涼さんの色彼女(いろカノ)ですよ」

と教えてくれた。