ホストは自分の稼ぎのために客を区別する。色彼女とは、ホストが「お前は俺の彼女だよ」と噓を真実と思い込ませ、金を貢がせる女のことだ。売れているホストには、この色彼女が多数存在するが、当の本人たちは「自分こそが彼の彼女」と信じている滑稽な存在である。

色彼女に反するものが本彼女(ほんカノ)という存在だ。文字通り本当の彼女であって、ホストたちはこの本彼女を店に呼ぶことは滅多にない。

そしてホストに対して絶対的な存在であるのはエースと呼ばれる客だ。ホストはエースになりそうな客には臭覚を研(と)ぎ澄ます。お金を惜しみなく使ってくれる女でなければいけない。そう、財力がなければホストのエースは務まらないのだ。

このエースという立場に憧れる客は、最初財力が無くとも、ホストの巧みな手練手管(てれんてくだ)によって財力を蓄えていく。ホスト業界では「落とす」と言われる、客の落ちる世界は風俗なのである。

ソープ嬢であれば一日の稼ぎは十万近くある。落とされたソープ嬢は、ピルで生理を止めてまで出勤し、ホストのために金を稼ぎまくる。

ホストからしてみれば、女は、母性本能というものを否応(いやおう)無しに抱えている「いいお客様」であり、稼いでいるホストはその母性に上手(うま)くつけ込み、大金を使って貰っているのだ。

暗闇の中ではしゃいでいるのは、まだあどけない少女たち。酒に飲まれ、男にしなだれ我を忘れ、数時間に大金をばらまいている。彼女たちもまた、酔いから醒め我に返れば、パステル調のキャラクターを抱いて眠る少女なのかもしれない、と夏海は思った。

『今日も帰りが遅くなるから』

破産宣告をした隆司は、パチンコ店のホール係として働いていた。会社を倒産させた人間に哀れみを施すほど社会は寛大ではない。求人誌を見て応募しても雇ってくれる企業はなく、パチンコ店での仕事が最後に残った一つだった。

「社長」と呼ばれていた時期が忘れられず、隆司は半ばやけくそでホール係を務めていた。『今夜は遅くなる』『今夜は帰れない』夏海はこのようなメールや電話に慣れてしまった。

隆司は無類の女好きだ。絶対に浮気をしているに違いない。しかし、夏海はそれを追及する勇気がなかった。気力が無かったと言ったほうがいいのかもしれない。

次回更新は1月16日(金)、21時の予定です。

 

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