そして僕は学校を転校することになった。親の仕事の都合で、というのが表向きの理由だ。なにも知らないうちに、僕の人生は僕の知らないところで勝手に動き始めた。

僕と遥香が付き合っていた事実は、学校の誰も知らない。だからそれを疑問視されることもなかった。ただ、元サッカー部の奴とクラスの地味な女の子が、同時期にたまたま転校と入院をすることになっただけのことだ。

僕は隣町に引っ越し、その近くの高校に通うことになった。志村をはじめとするサッカー部のみんなから寄せ書きをもらったけれど、素直に喜べるわけがない。志村の申し訳なさそうな表情から、彼だけは自分の味方だったと気づく。だから、もう無理はしなくていいと言ってやった。悔しい気持ちをぶつけるようにとりあえず受験勉強に専念した。

東京の桜明大学に通うために家を出て一人暮らしを始める日、父と母が送り出すときに言った「もう道を間違えるなよ」という言葉を聞いたとき、僕はもうこの家に戻ることはないのだろうと強く思った。遥香を思い出して怖くなったのだ。僕は許してもらえていない。

きっとこれからも犯罪者として、遥香の両親から忌み嫌われ、恨まれ、その家の伝承として語り継いでいかれる。もう散々だ。ちょうど、僕を理解しようとしない両親や、僕の存在を否定したサッカー部の奴らがいる。もうこの場所に僕を待つ人間はいない。さようなら。

僕は自分が生まれた町を出た。幼き日に虫取りに夢中になった公園、いつ歩いても賑やかな商店街、コロッケの美味しいお肉屋さん、虫歯を痛くないように取り除いてくれた歯医者さん、今の僕を築き上げた幼稚園と小学校と中学校と高校、みんないい人だった。いい場所だった。

みんなが悪いわけがない。そんなことはわかっている。でも、この気持ちと恐怖を拭えないのだ。ごめんなさい。僕を東京に運ぶ電車の窓から見える、僕が生まれた大好きなこの地を、のどかでゆったりと時間が流れるようなこの地を、最後に逃げるような気持で見ることになろうとは思ってもいなかった。

目に熱く溜まってくるものが溢れないよう必死に堪え、心地のよい電車の揺れに身を委ねた。

次回更新は1月27日(火)、11時の予定です。

 

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