でもグアグアに乗っている間、つぎからつぎへ後ろへ飛んでゆく景色を見ながら、慎ちゃんはずっと不安な気持ちでこんなことを考えていたのです。
(面接のとき、ひょっとしたらテストか何かあって、『この子はスペイン語が分からないので、不合格』と言われるんとちがうやろか……。
それとも、ものすごいゴリラみたいな男の先生かなあ、うんにゃ、女の先生でもこの国ではゴリラみたいな人かもしれん。そういう人が出てきて、わけの分からないことを聞かれたらどうしよう……そうちゃ、そんなときはなんでもいいから、にこにこ笑ってごまかしておいて、あとから母さんに断ってもらおう……)
コロニアを出て、三十分くらいゆられ、なだらかな坂を下るとグアグアが止まりました。
するとヘルメットをかぶった若いドミニカ兵が一人、バスの中へずかずかと入って来たのです。慎ちゃんは驚きました。アメリカ映画に出てくるような迷彩服を着て、肩に鉄ぽうをかけた兵隊さんだったからです。
その人は、バスの乗客一人一人をじろじろ見回しました。まるで映画にいつも出てくる(ワルモノ)のような目をしている、と思ったほど、すごみのある目だったのです。
何があったのだろうと一瞬身を固くして、隣にいる母さんの顔をうかがいました。
でも、母さんはいつものように、背筋を真っすぐにして、不安そうではなかったので、慎ちゃんも安心しました。
つぎにまた兵隊さんの方を見ると、ヘルメットの下にはもう優しい茶色の目がありました。
「これは検問って言うとよ。あやしい人がいないかどうか、町に入る車は全部調べられると」
そういえば母さんは何回かダハボンに来ていたので、もうこのことは知っていたのです。
兵隊はどうやらグアグアの運転手と顔なじみらしく、バスの入り口に立ったまま、運転手に笑いながら話しかけていました。運転手に明るい声で敬礼したあと、すぐにグアグアから降りて行きました。
すると、グアグアはゆっくり動き始め、検問所の前の道路を横切っている大きなバンプの上をガタン、ガタンと二つ乗りこえました。屋根の上の無賃乗車たちがまたおおげさにさわぎました。
ダハボン市に着いたのです。
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