【前回の記事を読む】新聞に、『カリブの楽園』ドミニカ共和国への移民ぼ集。家族で移住したが、小学生の息子はスペイン語を覚えられず…
第二章
(三)ダハボン市へ
ドミニカ共和国に住み始めて一カ月ほどたち、慎ちゃんは四月で十歳になりました。
ある日。
「杉山さんがダハボンの学校を紹介してくれたんやけど、そっちに行ってみる?」
日本人の集会所でスペイン語を教えてくれるマリア先生はとても熱心な先生で、子どもたちみんなから好かれていましたし、慎ちゃんとしては別に先生に不満はありませんでした。
でも、日ごろから、父さんたちは、
「クラス全員が日本人だとついつい日本語でしゃべってしまうねえ。スペイン語が上達するには、どこか別のところで勉強した方がいいかもしれん」
せっかく慣れてきた教室のみんなやマリア先生と別れるのはちょっぴり残念でしたが、両親が言うように、日本人の少ない学校に行った方がいいと慎ちゃんも思いました。
面接日の朝。
太陽が出る前に、母さんと慎ちゃんはダハボンへ「グアグア」と呼ばれるバスで行くことになりました。
このグアグアは真っ暗なラ・ビヒアの中を、お客さんを求めて大きな警笛を鳴らしながら一周します。停留所はありません。乗りたい人は、乗りたい場所で手を挙げればいいのです。
そういうわけで、母さんと慎ちゃんは家の前の暗い路上に立って、長い間グアグアを待ちました。
グアグアが「グァ、グァ」という音を鳴らしながら、向こうの方からだんだん近づいて来たとき、バスにひかれないように注意しながら母さんが両手を挙げました。グアグアがゆっくり目の前に止まりました。
グアグアの中には、十人ほど先客がいました。バスが動き始めると、上の方で、何か動物の鳴く声が聞こえてきます。
屋根にはトランクや段ボール箱などの荷物といっしょに、あさひもでくくられたニワトリや子豚たちが乗っていたのです。
今度は穴ぼこだらけのアスファルトの道を、グアグアは最終目的地のダハボン市へ向かってしっ走しました。
いたるところにある穴ぼこにバスが落ちてガタンと飛びあがるたびに、屋根の上の乗客たちからにぎやかな悲鳴があがりました。
車窓から、夜のなごりのすずしい風が入ってきました。