【前回記事を読む】『本当に彼だったの?』――野外劇場で出会った“お忍びの男”が私にだけ冷たかった本当の理由は……

Ⅰ 少女

第2章 聖ジョルジョ祭

思いがけない事実に、イザベラは驚いた。

「そして、『4人でこの縁談を壊そう』と誓ったんですって。その理由がね……あんな浅黒い人はイザベラに合わない、と言っているんですって。

それから、イザベラは有名な先生でも舌を巻くほどラテン語が上手いのに、一体どこから聞いてきたのか、フランチェスコ様は幼い時から先生方に『この若君を机に縛り付けておくのは至難の業でございます』と言われて母上に叱られた、とか、あの御方は戦しか出来ない、とか目茶苦茶言っているらしいの」

母はさらに続けた。

「それでね、ここが可愛いの。最後に、一番年下のルチオがぽろっと『壊した後でどうするの?』と言ったんですって。そしたら急にみんな、しゅんとなって黙ってしまったらしいの」

そう言って、母は目頭を押さえた。イザベラは黙ってうつむいて聞いていた。

次の日、イザベラは数日ぶりに図書館に行った。

いつもと違ってイザベラは、大理石の階段を静かに上って行った。そして、「ラテンの部屋」の樫の扉を開けた時、後ろからルチオがやって来るのに気がついた。イザベラは、ルチオのために扉を開けて待っていた。やにわにルチオは、イザベラが支えている扉を足で蹴った。

その音が反響した。

イザベラは、衝撃のあまり口も利けなかった。

あのおとなしいルチオが……口数が少ないのはステファノだが、ステファノの中には意固地な一面があることをイザベラは知っていた。それに比べてルチオは本当におとなしい優しい少年だった。イザベラはルチオの後姿を見送りながら、打ちのめされて立っていられない思いであった。

イザベラは、もう帰ってしまいたかったが、気を取り直していつもの書棚の所へ行った。しかし、いつもイザベラが読んでいるヴィルギリウスは、今日はそこに無かった。驚いてイザベラはあちこち探した。

そして、思いもかけずステファノの前に置かれているのを見つけた。しかし、ステファノは読んでいる様子は無かった。

イザベラは恐る恐るステファノに、

「この御本、よろしかったら、読ませていただけません?」

と声を掛けた。

「いいですよ、もう」

地響きのする様な唸り声が部屋中に響き渡った。生まれて初めてステファノが大声を出したので、イザベラは呆気にとられた。次の瞬間、イザベラは涙が出そうになった。